2023.3.28 江戸時代のゾンビとパラレルワールド 【よって件のごとし 三島屋変調百物語八之続】
よって件のごとし 三島屋変調百物語八之続 [ 宮部みゆき ]
評価:3
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■ヒトコト感想
三島屋変調百物語シリーズ第八弾。富次郎が3つの不思議な話を聞く。このシリーズは妖怪や怪異が登場するのだが、それが何の説明もなく終わる。京極夏彦のように何か仕掛けがあり妖怪や怪物が登場してくるというわけではない。そのため、最後に何かオチを期待してしまうと痛い目を見ることになるだろう。どちらかというと人間の恨みで怪異が登場してくる怖さがある。
良い嫁ぎ先を見つけた女に対して、何者かの恨みにより虻がまとわりつくことになる。その他、現代で言うところのゾンビ的な存在が登場し、池の中に入ると別世界がまっているという、ちょっとファンタジーのような世界観だが、強烈な恐怖がある。逃れようがなく、救いようのない物語だ。
■ストーリー
老人が語る、村を襲う「ひとでなし」の恐怖とは――三島屋シリーズ第八弾!江戸は神田三島町にある袋物屋の三島屋は、風変わりな百物語をしていることで知られている。語り手一人に聞き手も一人、話はけっして外には漏らさず、「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」これが三島屋の変わり百物語の趣向である。従姉妹のおちかから聞き手を受け継いだ三島屋の「小旦那」こと富次郎は、おちかの出産を控える中で障りがあってはならないと、しばらく百物語をお休みすることに決める。休止前の最後の語り手は、商人風の老人と目の見えない彼の妻だった。老人はかつて暮らした村でおきた「ひとでなし」にまつわる顛末を語りだす――。
■感想
「賽子と虻」は玉の輿で恨まれた姉を救うため、弟が姉を助けるために虻の呪いを食べることから不幸が始まる。呪いなんてのは精神的なもので気の持ちようによってはびくともしない類の話かと思ったのだが、現実に目の前の食べ物飲み物すべてに虻が入っているとなると、とても食べる気がしないのは確かだ。
姉を助けたい一心で虻を飲み込んだ弟。真に恐ろしいのは、貧しい農家から見初められ玉の輿にのったことを恨む女の存在については特に詳しく触れられないことだ。女の恨みこそ恐ろしい。
「土鍋女房」は川渡し稼業の長男が川の神に見初められ、長男に近づくものをかたっぱしから排除していく物語だ。本作はハッピーエンドなのだろうか。自分的には呪い殺されたようにしか思えなかった。土鍋を開けたらそこに女がいた。
このビジュアルを想像するだけで怨霊のようにしか思えない。ラストも荒れ狂う川の真ん中で長男は土鍋を抱えてにやりと笑いながら波にのまれていく。どう考えてもハッピーエンドではない。質の悪い悪霊にとりつかれ、最悪の結末を迎えているように思えて仕方がない。
表題作である「よって件のごとし」は、江戸時代に池を通じてパラレルワールドに入り込み、そこではゾンビ的な者が存在している世界となっている。江戸時代のゾンビの恐怖におびえながら、池の底が別の世界へとつながっている。
今までの呪いや怪異とはちょっと質が異なるが、噛まれたら「ひとでなし」となり、次々と人を襲うのはそのまんまゾンビだ。首を切り落とせばたおすことができる。江戸時代にゾンビが存在したらどうなるか、という物語だ。
呪いの恐怖が印象的だ。
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