夜果つるところ [ 恩田陸 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
「鈍色幻視行」に登場した呪われた作品。過去に三度も映像化が進行したものの、そのたびに関係者が死亡し一度も完成したことのない呪われた作品。一体どのような内容なのか…。それが本作ということになっている。その事前情報があればこそ、確かに変な恐ろしさがある。この世のものではない霊が見える子供。
遊郭にいる三人の母親。産みの親、育ての親、名義上の親。それぞれの風変わりな日々と、頻繁に訪ねてくる「カーキ色」(兵士)の男たち。オカルト的な逸話がある作品と知って読むと、妙な不気味さがある。昭和初期の物語であり、何かしら革命を目指していたが失敗したこと。タブーに触れているようでもあり、呪われるという噂が真実のように思えてくる作品だ。
■ストーリー
遊廓「墜月荘」で暮らす「私」には、三人の母がいる。日がな鳥籠を眺める産みの母・和江。身の回りのことを教えてくれる育ての母・莢子。無表情で帳場に立つ名義上の母・文子。ある時、「私」は館に出入りする男たちの宴会に迷い込む。着流しの笹野、背広を着た子爵、軍服の久我原。なぜか彼らに近しさを感じる「私」。だがそれは、夥しい血が流れる惨劇の始まりで……。謎多き作家「飯合梓」によって執筆された、幻の一冊。『鈍色幻視行』の登場人物たちの心を捉えて離さない、美しくも惨烈な幻想譚。
■感想
飯合梓という作家が描いた呪われた作品。昭和初期と思われる時代に、遊郭で育てられた「私」が見た世界。私は複雑な家庭環境にあり、母親が三人いる。それぞれに私は感じるものがある。呪われた作品という前提条件があればこそ、怪しげな雰囲気を感じることができるだろう。
産みの母親である和江に激しい恨みの気持ちをもつ私。常日頃から霊を見ることができるのもポイントかもしれない。遊郭に頻繁にやってくるカーキ色の軍服に包まれた兵士たち。この雰囲気が恐ろしさを倍増させている。
遊郭では様々な事件が起こる。パパラッチがやってきて写真を撮る。私が撮影されたことが、かなり大きな問題となる。その後、そのパパラッチは…。私の正体がはっきりしないまま物語は最終局面へと動いていく。昭和初期の革命。歴史的な出来事を想像してしまうのだが…。
革命の日、様々な者たちが激しく動く。そして、遊郭が燃え落ちる。私の激しい復讐心や、霊の存在などが強烈に描かれている。自分の産みの母親が禁断の恋に目覚めていたことに怒りを感じる私が強烈だ。
「鈍色幻視行」を読んでいない状態で、本作の位置づけを知らないと、かなりつらいかもしれない。呪われた作品というバックグラウンドありきの作品だろう。あえてそうしているのかもしれないが、謎は謎のまま終わらせている。
遊郭に住む子供。この子供について詳しく語られないまま、状況的に読者は様々な想像をしてしまう。自分も騙されたパターンではある。呪われた作品というのがオカルト風味を強烈に高めてはいるが、それがないと微妙な作品かもしれない。
いわくつきの作品と知っていれば恐ろしく感じる作品だ。