わたしに会いたい [ 西加奈子 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
西加奈子の短編集。作者自身が乳がんの治療をしていた関係なのか、それ関係の短編が多い。作者の乳がんの下りは「くもをさがす」ですでに知っていた。シリアスな展開の短編が多い。女性ならではというか、身体的な特徴だとか、乳がんを患い、乳房を切除した女性の感覚など、普通の男では感じることのできない物語となっている。印象的なのは、「あらわ」だ。
グラビアアイドルが乳がんのためにGカップの乳房を切除する。それまでの自分の価値がまるで乳房にしかなかったような扱いを周りから受ける。乳房を再生するのかどうかも意味があるのだろう。Gカップのグラビアアイドルが乳房を全摘するというのが強烈なインパクトがある。わかっていたことだが、つらい境遇となる。
■ストーリー
コロナ禍以前の2019年より、自身の乳がん発覚から治療を行った22年にかけて発表された7編と書き下ろし1編を含む、全8編を収録。・「わたしに会いたい」──ある日、ドッペルゲンガーの「わたし」がわたしに会いに来る。・「あなたの中から」──女であることにこだわる「あなた」に、私が語りかける。・「VIO」──年齢を重ねることを恐れる24歳の私は、陰毛脱毛を決意する。・「あらわ」──グラビアアイドルの露(あらわ)は、乳がんのためGカップの乳房を全摘出する。
・「掌」──深夜のビル清掃のアルバイトをするアズサが手に入れた不思議な能力とは。・「Crazy In Love」──乳がんの摘出手術を受けることになった一戸ふみえと看護師との束の間のやり取り。・「ママと戦う」──フェミニズムに目覚めたママと一人娘のモモは、戦うことを誓う。・「チェンジ」(書き下ろし)──デリヘルで働く私は、客から「チェンジ。」を告げられる。
■感想
「VIO」は印象的だ。24歳のわたしがVIOを脱毛する。それを担当してくれたのは、中国の女の人なのだが…。VIO脱毛がどのようなものかわわからなかった。女性からしても、一般的な行為ではないのだろう。
VIOという言葉の響きがIMFだとかFBIだとか、何か特殊な組織の略称のように思えることから着想を得たのかもしれない。オチがなんだかわからないが楽しくなった。VIO脱毛という行為自体をやられている間はまさにすべての面で無防備になる感覚なのかもしれない。
「掌」は特殊だ。清掃業務を行うアズサは特殊能力を手に入れた。それはすりガラスに手をついてバックから突かれている女性の掌を見ると、その女性の未来がわかるという能力だ。ものすごくピンポイントで、その場でしか発生しない能力だ。
ただ、清掃アルバイトのたびにその能力を発揮する。目の前でガラスについた掌を見て、その女性の未来を予知する。本人にそのことを伝えるでもなく、隣にいる同僚にとつとつと語る。この無意味さが良い。これこそが、不条理で意味のない物語の良さだ。
「チェンジ」はデリヘルで働く私が主人公で、客からチェンジを食らうという物語だ。デリヘルという仕事の特殊さや客と1対1でホテルで会うことのリスク。そして、実際に顔を合わせた瞬間に、相手に対してチェンジと言えるメンタルの強さ。
チェンジされるということは、容姿のすべてを否定されたということで、相当なショックなのかもしれない。送ってもらった車にすぐに戻る気持ちはどうなのか。その車の運転手が車の中で資格の勉強をしていたりすると…。特殊な心境を感じ取る物語だ。
乳がんを経験した作者だから描ける作品だろう。