兎は薄氷に駆ける [ 貴志祐介 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
冤罪事件や警察の取り調べの過酷さを描いた作品。資産家男性が自宅で死亡していた。容疑者として浮かび上がったのは被害者の甥の日高英之だった。英之の父親が冤罪事件で逮捕されたという前振りがあり、その冤罪事件の真犯人が叔父の可能性がある。終盤までは警察の取り調べのあくどさと検察との激しい駆け引きがメインの物語となっている。
終盤ではあらゆる可能性が想定でき、最後には強烈な結末となる。父親の冤罪事件を告発するために行うにはあまりにもリスクの高い行動の数々だ。第三者的な存在である垂水がいることで、事件の裏がはっきりとしてくる。冤罪事件はどのようにして生まれるのか。ちょうど「Winny」を見たので同じような気持ちになった。
■ストーリー
ある嵐の晩、資産家男性が自宅で命を落とす。死因は愛車のエンジンの不完全燃焼による一酸化炭素中毒。容疑者として浮かんだ被害者の甥、日高英之の自白で事件は解決に向かうと思われたが、それは15年前の殺人事件に端を発する壮大な復讐劇の始まりだった。警察・検察、15 年前の事件の弁護も担当した本郷、事件調査を請け負う垂水、恋人の千春……。それぞれの思惑が絡み合い、事件は意外な方向に二転三転していく。稀代のストーリーテラーが満を持して放つ、現代日本の“リアルホラー”!
■感想
強烈なインパクトがあるのは間違いない。序盤では叔父の殺害容疑として英之が警察に連行され取り調べを受ける。疑われる理由はあるにせよ、物的証拠がない中で、警察はひたすら英之に自白させようとする。長時間の取り調べにより相手の思考能力を奪い、警察が作り上げた調書に同意させようとする。
ここで言葉巧みに、後で修正すればよいという言葉でその場限りと思わせながら調書を作成する。こんなことを当たり前に警察はやっているのだろうか。だとしたら冤罪が発生するのも当たり前だ。
弁護士や垂水が調査する中で、英之の裁判が始まる。ここでは検察と弁護士の対決となる。検察としては面子があるので必ず有罪としなければならない。裁判の場で自白はすべて警察の作文ですと訴えたとしてもそれがすんなり通じるはずがない。
すべては警察に騙され、英之自身が父親も味わった冤罪事件を生み出すプロセスを経験しているということだろう。それを理解しながら、巧みな仕掛けを用意しており、最終的には裁判で検察が起訴を取り下げるまでを予定している。この流れがすばらしい。
ラストでは当然ながら大きなどんでん返しがある。英之や弁護士たちが共謀し最初から練り上げた計画。一歩間違えればすべてが無になり、無駄に人を殺し意味のないこととなってしまう。父親の冤罪を晴らすために自らが犠牲となる。
すべての仕掛けを知ってから垂水はどのように行動するのか。完璧に練り上げられた計画であっても、少しの想定外ですべてが崩壊しかねない。非常にリスクがあり、リターンはそうでもない過酷な計画であることは間違いない。
警察の取り調べのすさまじさが印象的だ。