土の記 上 


 2022.6.12      田舎での生きづらさが描かれている 【土の記 上】

                     
土の記(上) [ 高村薫 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
奈良の旧家の婿養子となった伊佐夫の物語。序盤ではどのような物語となるかは想像できない。妻が交通事故にあい、植物状態となり、その後死んだ。残された伊佐夫は、交通事故を起こしたダンプの運転手である山崎の死の知らせを聞き、昔を思い出す。物語としては、序盤ではごく普通の田舎の暮らしだが、だんだんと伊佐夫と妻であった昭代の関係が明らかとなってくる。

後半では交通事故は昭代が自らダンプに突っ込んだというような描写もある。伊佐夫と昭代の関係はうまくいっていなかった。昭代には実は男がいた、なんて話も登場してくる。娘である陽子は離婚しNYへと移住する。孫はテニスに明け暮れている。ごく普通の田舎に住んでいる者たちの心の奥底が覗けるような作品だ。

■ストーリー
東京の大学を出て関西の大手メーカーに就職し、奈良県は大宇陀の旧家の婿養子となった伊佐夫。特筆すべきことは何もない田舎の暮らしが、ほんとうは薄氷を踏むように脆いものであったのは、夫のせいか、妻のせいか。その妻を交通事故で失い、古希を迎えた伊佐夫は、残された棚田で黙々と米をつくる。

■感想
東京から奈良の田舎の婿養子となる伊佐夫。田舎での濃密な関係性と昭代という美しい妻を得たことの戸惑いなどが語られている。山崎というダンプの運転手の死から過去の事故を思い出す。序盤ではどのような物語かは判別できない。

事故に遭い植物人間状態となった妻の昭代が死に、事故の当事者である山崎も死ぬ。自分自身も歳をとり、娘は離婚しNY生活となる。もしかしたらどこにでもある田舎のいち風景なのかもしれない。昭代の事故の真相が、少しミステリアスに描かれている程度だ。

田んぼで米を作る伊佐夫。娘がNYへ移住するため、一時的に孫を預かることになる。年老いた祖父と女子高生の孫という組み合わせは、かなり難しいかと思うのだが、作中ではそれぞれに干渉しないことで問題なく過ごせている。

伊佐夫の心の思いはいちいち納得してしまう。不愛想な娘に似た孫ではあるが、同年代の近所の女の子とは楽しそうに会話をする。田舎の風習から逃げ出す形になった娘たちをうらやむでもなく、どこか娘は別世界へ行ってしまったような思いが伊佐夫と昭代の心の中にはあったのだろう。

伊佐夫と昭代の関係が段々と明らかになってくる。何も問題のない夫婦と思われたが、実はひそかな確執があった。昭代が外で何者かと浮気をしている。その兆候を伊佐夫は感じながらも、何も行動を起こそうとはしない。本作で驚きなのは、娘である陽子が母親の状況を理解しており、母親の血が自分にあることを忌避したりもしている部分だ。

田舎であれば周りの目もある。周りも伊佐夫が気づいていないと思い何も言わない。田舎ならでわの難しさというか、生きづらさを感じる場面が多々ある。

下巻では事故の真相が明らかとなるのだろう。



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