燕は戻ってこない 


 2022.11.4      代理母として書類上で結婚し離婚する 【燕は戻ってこない】

                     
燕は戻ってこない [ 桐野夏生 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
桐野夏生の作品。代理母をめぐる物語なのだが…。女性と男性で印象が大きくかわるだろう。子供がほしいと望む人は多い。代理母として卵子と母体までも提供するというのはかなり強烈だ。どうしても自分の子供がほしく、奥さんの卵子では不可能とわかった時、どのような決断となるのか。養子をとるのではなく、自分の精子を人工授精で他人の女の卵子に植え付ける。

その後、母体で成長し産まれた子供を育ている。驚きなのは、日本では法律的に認められていないので、妻とは離婚し代理母と結婚するという部分だ。そこまでしなければならないのか。代理母の心の変化や貧困によりビジネスとして卵子と母体を提供するということの変化が描かれている。

■ストーリー
この身体こそ、文明の最後の利器。29歳、女性、独身、地方出身、非正規労働者。子宮・自由・尊厳を赤の他人に差し出し、東京で「代理母」となった彼女に、失うものなどあるはずがなかった――。北海道での介護職を辞し、憧れの東京で病院事務の仕事に就くも、非正規雇用ゆえに困窮を極める29歳女性・リキ。「いい副収入になる」と同僚のテルに卵子提供を勧められ、ためらいながらもアメリカの生殖医療専門クリニック「プランテ」の日本支部に赴くと、国内では認められていない〈代理母出産〉を持ち掛けられ……。

■感想
貧困から抜け出そうとする女リキの物語。非正規で独身。体は健康な29歳。最初は卵子を提供するという話だったのだが、代理母にまですすんでいく。裕福でバレエ教室を主宰している草桶は再婚した妻が妊娠できないことを知り、どうしても自分の遺伝子を残したいと考えている。

妻の卵子ではなく自分の遺伝子を残すことを優先としているので、代理母での人工授精を希望する。リキとの面談で、リキが妻に似ているからと前のめりになる。日本では許されない代理母という制度が強烈なインパクトがある。

自分の体で他人の子供を育てるのはどのような気持ちなのだろうか。健康な子供を産むためには、ある程度生活も制限されてしまう。驚きなのは、代理母に子供を産ませるために書類上ではあるが今の嫁と離婚し、リキと再婚するという部分だ。

リキからすると勝手にバツイチにされてしまう。それを込みでの費用ということなのだが…。普通の人にはできないことだろう。すでに人生をあきらめ、家族にも黙って結婚し、相手を紹介しないまま離婚するような感じだ。世の中にはこんな女性も存在するのだろうか。

リキは双子を妊娠したが、その子供が草桶の子供でない可能性もある。草桶への反発として、昔の不倫相手や知り合いとセックスをする。その結果、妊娠したのだが…。自分の遺伝子を継ぐ子供ではないと知らされた草桶のショックはすさまじいものだろう。

ただ、本作の流れとしては、常にリキは無理難題を押し付けられた被害者的な扱いとなっている。草桶の嫁も、リキが産むであろう双子をしっかりと育てる決意をする。リキだけが生まれた子供を見て、愛着がわくかもしれないと躊躇している。

代理母というのはまったくの別世界に思えてしまった。



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