ツバキ文具店 


 2024.10.4      言いづらいことを代筆屋に頼む 【ツバキ文具店】


                     
ツバキ文具店 (幻冬舎文庫) [ 小川糸 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
代筆屋を営む鳩子の物語。ポッポちゃんと呼ばれる鳩子が様々な人々の手紙を代筆していく。そもそも代筆屋なんてのが成り立つのか疑問なのだが…。自分の思いを伝えられない人が内容を含めて鳩子に代筆を依頼する。字の雰囲気も含めてすべて鳩子が考えて手紙を書く。祖母から引き継いだ代筆屋についての悩みや鳩子の日々の生活を描いている。

作者の作品らしく、落ち着いた日常が描かれている。ちょっとした料理を作ったり、近所のバーバラ婦人や男爵と仲良くなり一緒に食事をしたり。パン作りが趣味の小学校の教師をパンティちゃんと呼んだり。独特な世界観と落ち着いた日常の小説作品だ。やはりどこか「食堂かたつむり」に雰囲気は似ている。

■ストーリー
鎌倉で小さな文具店を営むかたわら、手紙の代書を請け負う鳩子。今日も風変わりな依頼が舞い込みます。友人への絶縁状、借金のお断り、天国からの手紙……。身近だからこそ伝えられない依頼者の心に寄り添ううち、仲違いしたまま逝ってしまった祖母への想いに気づいていく。大切な人への想い、「ツバキ文具店」があなたに代わってお届けします。

■感想
人の思いを手紙で代筆する代筆屋。作中ではその代筆の具体的な代金は示されていない。男爵から料金代わりにとウナギをごちそうになっていたのだが…。もしかしたら5千円くらいなのかもしれない。自分の思いをうまく相手に伝えられない場合、代筆屋にお願いする。

鳩子は小さなころから祖母に厳しくしつけられ文字の練習を欠かすことがなかった。祖母からすると自分の跡取りは鳩子だと決めていたのだろう。鳩子の母親については詳しくは語られていないが事情がありそうな雰囲気がある。

離婚を伝える手紙や、習い事の師匠に対して断りの手紙など、様々な手紙がある。特に印象的なのは、嫌なことや伝えにくいことを鳩子に依頼する手紙だ。やはり良いことは自分でスラスラと手紙に書けるのだろう。伝えにくいことはどのような文面にするのか悩むのは当然だろう。

鳩子の代筆屋はあらかじめ原稿があるわけではなく、手紙の内容についても鳩子が書いている。この内容が依頼者の意志に反することはない。面白いのは依頼主のキャラクターに合わせて文字の書きっぷりも変えている部分だ。

伝えにくいことを相手に嫌悪感を抱かせずに伝えるのは難しい。それを鳩子は書いている。特に強烈なのは、ボケかけた母親が死んだ父親から手紙を待ち続けている場合の代筆だ。すでに死んでいる父親の代わりに母親に対して手紙を書く。

当然ながら父親の筆跡に似せなければならない。鳩子は字の達人というだけでなく、模倣もすぐれているということなのだろう。どうやら、本作には続編があるらしい。本作のラストでは恋愛的な要素も組み込まれており、何かしら鳩子の周辺に変化がありそうだ。

落ち着いてのんびりとした物語だ。



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