2022.12.19 一日一組だけをもてなす食堂 【食堂かたつむり】
食堂かたつむり (ポプラ文庫 日本文学 102) [ 小川糸 ]
評価:3
■ヒトコト感想
恋人に棄てられた倫子が田舎に帰り、そこで食堂を始める物語だ。食堂といってもひとりの客と面談し、そこでメニューを考えひとりのために料理を提供する。採算度外視で趣味に近い感じで食堂として経営する。食堂かたつむりで食事をすると不思議なことに願いが叶う。わけありな人々と倫子が面談し、その人にあったメニューを作る。
豚のエルメスとの日々の暮らしと、そこからさまざまな人々との交流が描かれている。強烈なインパクトがあるのは、ラストの母親の結婚式のためにエルメスを解体してすべてを料理に使う場面だ。ペットのように共に過ごしてきたエルメスを解体する。エルメス側もまるでそれを見越していたかのように覚悟を決めている。食べるという意味をあらためて感じさせられる作品だ。
■ストーリー
おいしくて、いとおしい。同棲していた恋人にすべてを持ち去られ、恋と同時にあまりに多くのものを失った衝撃から、倫子はさらに声をも失う。山あいのふるさとに戻った倫子は、小さな食堂を始める。それは、一日一組のお客様だけをもてなす、決まったメニューのない食堂だった。巻末に番外編を収録。
■感想
恋人に去られた倫子は地元に帰り食堂を開くことになる。食堂かたつむりという店の名前はついているが、食堂というよりは一日一組だけをもてなす完全予約制のレストランという感じだ。倫子は客と面談し、客に合った料理を作る。
偏屈なおばあさんの心を溶かすような料理。食堂かたつむりの開店を手伝ってくれた熊さんへ作ったカレーライス。母親の愛人というふれこみで何かと絡んでくるオヤジにふるまったお茶漬け。どれもが特別な素材を使っているわけではないが、妙においしそうに感じてしまう。
倫子は恋人に棄てられたショックから声を出すことができなくなっている。客と話をするのも筆談がメインだ。そのため最低限のコミュニケーションしかとらない。このことが逆に店の雰囲気をよいものにしている。
倫子は自分が作った料理を客がどんな顔をして食べるのか、面と向かって見ることができない。それでも気になるので、隠れて手鏡で見たりもする。願いが叶う料理として評判になる。途中、嫌がらせのようなことをしてくる輩もいるのだが、それらに負けずに倫子は逞しく生きる。
ラストには母親の結婚式に向けて特別な料理を作ろうとする。その材料としてペットとして共に過ごしてきた豚のエルメスを解体することを考える。ここで普通ならエルメスを解体することを躊躇するはずが、倫子は食べることは命をもらうことと認識しているので、躊躇なくエルメスを素材に使おうとする。
そして、自らの手でエルメスを絞める最初の段階を実行したりもする。きれいごとだけではない。生きるということは他者から命をもらう、当たり前のことを当たり前に実行しているだけ、という感じだ。
生きるということは、他者から命をもらうことだ。
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