遠巷説百物語 


 2023.3.15      盛岡の地で又一たちが仕掛けをする 【遠巷説百物語】

                     
遠巷説百物語 京極夏彦
評価:3
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■ヒトコト感想
巷説百物語シリーズ。今回は盛岡藩というひとつの藩を中心とした物語となっている。基本は、最初に妖怪の話がはじまり、その妖怪にまつわるような奇妙な事件が起こる。超巨大な魚に人間が飲み込まれるとか、巨大なクマに人が殺されるだとか。妖怪の仕業のような雰囲気があるが、目の前で一般人も含めその現象を見る。オチとしては又一が別名として活動し、すべては仕組まれたモノとなっている。

噂話を求める祥五郎は奇妙な噂が現実となる。どうしようもない難事をおさめるために、奇妙な事件として決着をつけている。壮大な仕掛けではあるが、奇跡的に仕掛けが成功する。悪党なのには変わりはないが、困っている人を助けることがメインとなっている。仕掛けの種明かしが爽快だ。

■ストーリー
自分の目となり耳となって遠野保の民草の動向を見極め、逐一報告せよ――盛岡藩筆頭家老の密命を受け、御譚調掛として巷間の噂話を蒐集する宇夫方祥五郎。座敷童衆に花嫁装束ののっぺらぼう、火を吐く怪鳥、集まる「ハナシ」は虚実あいまいなものばかり。だが、その裏にはご定法でも義理人情でもいかんともしがたい厄難を祓う渡世の小悪党たちが跋扈していた。

■感想
「花嫁装束ののっぺらぼう」は強烈だ。夜道に目と鼻がないのっぺらぼうがやってくる。それも花嫁衣裳を着た女だ。想像するだけで恐ろしい。それとは別にある屋敷に長い間病で眠っている女がいた。読者はこの女がのっぺらぼうの正体なのでは?と思う。

結論としては、のっぺらぼうは侍が退治してしまう。そして、女は回復する。奇妙な妖怪の話のように思えるのだが、そこには壮大な仕掛けがあった。原因ははっきりしているがそのことを公にすると不幸の連鎖が発生するため、妖怪の仕業としておさめている。

最初の奇妙な出来事が、まさに妖怪や怪異そのものに思えてくる。ただ、そこには又一たちの仕掛けがあり、いかにも怪異のように見せかけている。人は妖怪のせいだからと事件周辺を細かく調べたりはしない。本来ならお家取り潰しになるような不祥事が裏には隠れていたが、それらを妖怪の仕業として隠している。

この鮮やかな進め方がすばらしい。この仕掛けがないと、様々な問題が発生していたのだろう。人をひと飲みしてしまうほど巨大な魚など、現実にはありえないことを魚の張りぼてでごまかしている。

巨大なクマが人を襲う。妖怪というよりは、ビッグフットなどのUMAのようなパターンだろう。現実には存在しないが、架空の存在を目くらましにしている。遠野をベースとした物語となっており、最終的には連作短編のような形となっている。

これまでの巷説百物語シリーズを読んでいるならば、それなりに楽しめるだろう。読んだことがない人も、京極夏彦の作品を読んでいるならば問題ない。京極作品が初めてで本作となるともしかしたら厳しいのかもしれない。

又一たちの大活躍が読めるのは確かだ。



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