とんび


 2023.5.26    昭和の不器用な男ヤスが良い【とんび】

                     
とんび/阿部寛
評価:3

■ヒトコト感想
原作は読んでいる。ドラマ化された作品ではあるが、映画化もされている。昭和初期の不器用で頑固な男ヤス。ヤスと息子のアキラをとりまく周辺の物語。まず序盤のヤスは肉体労働者の典型というべき男として描かれている。粗暴で酒飲み、喧嘩は日常。ただ、妻の美佐子にはベタ惚れで息子のアキラが生まれた際には大喜びする。

不幸な事故で親子二人暮らしとなるヤスとアキラ。親子の絡みがメインではあるが、アキラの成長と共にヤスも成長するかと思いきや…。そうはならない。アキラが東京へ進学する寂しさと、息子には自由に羽ばたいてほしいと考える葛藤がすさまじい。ヤスのような父親をもつと、アキラが妙に面倒見のよい子に成長するのも納得の流れだ。

■ストーリー
日本一不器用な男・ヤスは、愛する妻・美佐子の妊娠にも上手く喜びを表せない。幼い頃に両親と離別したヤスにとって、"家族"は何よりの憧れだった。時は昭和37年、瀬戸内海に面した備後市。アキラと名付けた息子のためにも、運送業者で懸命に働くヤス。だが、ようやく手にした幸せは、妻の事故死によって打ち砕かれる。悲しみに沈むヤスだったが、人情に厚い町の人々に叱咤激励され、彼らの温かな手を借りてアキラを育ててゆく。

時は流れ、高校3年生になったアキラは、東京の大学を目指し合格を勝ち取る。だが、別居の寂しさも相俟ってヤスは、「一人前になるまで帰って来るな! 」とアキラを突き放す。そして昭和63年、久々に再会したヤスと大人になったアキラだったが―。

■感想
不器用で昭和の肉体労働の男そのままのようなヤス。阿部寛が演じるのだが、まさに想像どおりのヤスだ。粗暴で喧嘩っ早い。アキラとの二人暮らしでは男親と小さな子供というのは確かに難しい。それでも周りの協力がありながらアキラが健やかに成長するのが良い。

特に近所の人々がアキラをまるで自分の子どものように育てているのが良い。もの心ついたころに、アキラからヤスへ母親のことについて質問がある。ヤスはアキラのことを考え真実を告げない。このあたりの機微がすさまじい。

アキラが高校3年になると東京の大学へ行こうとする。ここでヤスの心境の変化が明らかとなる。子供の成長を喜び、気持ちよく送り出すところなのだが…。あからさまにヤスの態度は変わる。息子が自分の元を離れるのが寂しくて仕方がない。

それを正直に言えない。このヤスのもどかしい感じが良い。それでいて、周りから指摘されると怒り出す。やっかいな男ではあるがわかりやすい。アキラもヤスの思いを知っているからこそ、何も言わずに東京へ向かったのだろう。

東京でアキラはバツイチ子持ちの女性と結婚するとヤスへ告げる。ここで衝撃的なのは、ヤスの地方では息子が7歳も年上のバツイチ子持ちの女性と結婚するのはダメだという流れらしい。現在では特別珍しいことではないのかもしれないが、平成元年の時期と地方ではそういった思いがあるのだろう。

ヤスがアキラの婚約者を前にして何も言えずに沈黙していると、周りがある仕掛けをする。これが最高だ。ヤスの気持ちを吹っ切らせるために…。ヤスは間違いなく周りに恵まれている。

ヤスのキャラクターは強烈だ。



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