2023.6.27 中国の奥地へ密偵に行く男 【天路の旅人】
天路の旅人 [ 沢木耕太郎 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
沢木耕太郎が西川一三に話を聞く。この西川一三という人物のことはまったく知らなかった。第二次世界大戦の時期に中国への密偵として単独でラマ僧に扮して旅をしていた。作者の「深夜特急」よりも前に、よりハードな旅をしていたという事実に驚いた。作者が若いころに西川一三から聞いた話と元の原稿から、西川一三が出版した作品とは別に作者が西川一三とはどんな人物かを旅を通して描いている。
日本人という素性を隠しながら中国の奥地からインドまで旅をして周りを見て回る。その道中で日本が戦争に負けたと知り、自分の役目を失ったとしても、旅をやめない。野宿や電車への無賃乗車は当たり前の旅。旅する中で多数の言語を操れるようになった西川一三。その存在自体はまさに修行僧のような印象だ。
■ストーリー
第二次大戦末期、敵国の中国大陸の奥深くまで「密偵」として潜入した若者・西川一三。敗戦後もラマ僧に扮したまま、幾度も死線をさまよいながらも、未知なる世界への歩みを止められなかった。その果てしない旅と人生を、彼の著作と一年間の徹底的なインタビューをもとに描き出す。著者史上最長にして、新たな「旅文学」の金字塔。
■感想
戦時中にスパイとして中国の奥地に入り込む。実際に何か目的の情報があるわけではなく、当時は日本にとって未知の世界であった中国奥地を見て回ることがミッションだ。チベットのラマ僧に扮して旅をする。当然ながら、バレる可能性もある。
戦争中に正体がバレたとしたら、下手したら処刑の可能性すらある。それほど危険な任務を外務省から命令を受けて西川一三は実行していた。旅の中では日本人とバレることを第一に恐れながらも、旅を楽しんでいる様子がうかがえる。
強烈なインパクトがあるのは、ラマ僧としての旅が信じられないような過酷な旅だということだ。雨の中で野宿したり、食事はすべて托鉢をあてにする。移動は基本的に徒歩ではあるが、たまに電車を無賃乗車する。他者が駱駝に乗って移動しているが、西川は荷物を駱駝に積むことはあっても駱駝に乗ることはない。
西川がどこでも眠ることができる特技があったので、ある程度体力的なものは確保できたのだろう。ある意味日本人であることを捨て、ひたすら旅にまい進している感じだ。
中盤では西川は日本が戦争で負けたと知る。となると自分の任務に意味がなくなる。そこですぐに日本に帰るかと思いきや、西川は旅を続ける。もはや未知の国を見て回ることが西川のすべてになっている。同じ日本人で同じような任務を負っていた木村が日本に帰る際に西川を密告したのだが…。
西川はそれを恨んでいるようなそぶりがある。もし、木村が密告しなかったら、死ぬまで西川は中国の奥地やインドなど未知の国を旅し続け、西川という存在が日の目を見ることはなかったのだろう。
「深夜特急」の元祖がここにある。
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