祝祭と予感 


 2023.1.27      「蜜蜂と遠雷」のスピンオフ短編 【祝祭と予感】

                     
祝祭と予感[ 恩田陸 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
「蜜蜂と遠雷」のキャラクターたちのサイドストーリー。それぞれがキャラ立ちしているので、すんなりと個性を楽しむことができた。風間塵の圧倒的才能を示す短編や、師匠であるホフマンとの出会いなども描かれている。基本はピアノの才能についての物語となっている。自分がナンバーワンという思いをもつ者たちが、自分以上の才能に出会った場合どうなるのか。オマケとして音楽エッセイも収録されている。

ピアノ演奏の小説を書いているだけに、様々な音楽に触れているのを感じさせるエッセイもある。天才たちの競演というか、それぞれのキャラが掘り下げられている。「蜜蜂と遠雷」を読んでいないとキャラの特性がわからないので辛いかもしれない。

■ストーリー
コンクール入賞者ツアーのはざま、亜夜とマサルとなぜか塵が二人の恩師・綿貫先生の墓参りをする「祝祭と掃苔」。菱沼が課題曲「春と修羅」を作曲するきっかけとなった忘れ得ぬ教え子への追憶「袈裟と鞦韆」。幼い塵と巨匠ホフマンの永遠のような出会い「伝説と予感」ほか全6編。最終ページから読む特別オマケ音楽エッセイ集「響きと灯り」付き。

■感想
「袈裟と鞦韆」は印象的だ。菱沼が教え子との交流を追想する。仕事のプレッシャーに負けづに頑張りつづけてきた教え子。無理がたたり病気でこの世を去る。不眠症のため、仕事もうまくいかず辛い状況だったのだろう。

菱沼が訃報を受けた際の衝撃が伝わってきた。そして、菱沼が教え子の葬式に参加した際の、教え子の家族たちとの交流。若くして大黒柱を失ったとしても、そこに何か妙な明るさがあるのは、救いなのかもしれない。必ずしも悲しみに暮れるわけではない。

風間塵関連はやはり印象体だ。ホフマンが最初に塵と出会った「伝説と予感」は、天才が自分をも超える天才に出会った瞬間が描かれている。同じく天才少女である亜夜とマサルが出合ったきっかけ。コンクールでどちらも2位となり1位が存在しない。

1位になればホフマンの弟子になれる。やはり塵とは違うという差別化がされているのだが、亜夜やマサルは天才なだけでなく、超絶に負けづ嫌いであるというのがよくわかる作品だろう。

天才だけでなく菱沼の教え子のように、凡人も描かれているのが良い。ピアニストは華やかな部分だけがクローズアップされがちだが、何人もの夢破れて諦めた者たちがいる。天才に敵わないとしても、夢を持ち続け挑戦し続ける者もいる。

それらがバランスよく描かれているのが良い。巻末には音楽エッセイがある。「蜜蜂と遠雷」を描くとは関係なく、音楽に興味があったのだろう。多種多様な音楽エッセイが収録されているので、作者のファンならば見逃せない作品だろう。

「蜜蜂と遠雷」を再読したくなる作品だ。



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