2023.6.15 明治の傑物をどの程度知っているか 【書楼弔堂 待宵】
書楼弔堂 待宵 [ 京極夏彦 ]
評価:2.5
京極夏彦おすすめランキング
■ヒトコト感想
書楼弔堂シリーズ第3弾。実在の人物のエピソードを交え、甘酒屋の弥蔵と利吉の会話から物語はスタートする。そして、登場してくる人物が、何かしら実在の人物ということなのだろう。悩みだったり苦しみだったりを語り、最後には弔堂が登場し悩みを解決?する。京極堂のようにミステリアスな事件を解決するようなタイプではない。
大量の書物をすべて把握しているであろう弔堂の店主が答えを導きだす。迷える男は、弔堂の言葉で何かを感じ取る。そして、実在の人物は実はこうだったのだ、という驚きを読者に与える。基本的に登場してくる実在の人物のことを知らないと楽しめないだろう。事前知識がある前提で、少し特殊な弔堂との絡みを楽しむ作品だ。
■ストーリー
舞台は明治30年代後半。鄙びた甘酒屋を営む弥蔵のところに馴染み客の利吉がやって来て、坂下の鰻屋に徳富蘇峰が居て本屋を探しているという。なんでも、甘酒屋のある坂を上った先に、古今東西のあらゆる本が揃うと評判の書舗があるらしい。その名は “書楼弔堂(しょろうとむらいどう)”。思想の変節を非難された徳富蘇峰、探偵小説を書く以前の岡本綺堂、学生時代の竹久夢二……。そこには、迷える者達が、己の一冊を求め“探書”に訪れる。
■感想
本作に登場する明治の傑物たちをどの程度知っているかで楽しみ方が変わってくるだろう。連作短編集であり、今回の狂言回し役は甘酒屋の弥蔵となじみ客の利吉だ。各巻ごとに狂言回し役が変わっている。本作の弥蔵は、しなびた甘酒屋のオヤジというイメージが前半から続いていく。
ふかし芋と甘酒を細々と売りながら自分の食い扶持だけを稼ぐ男。利吉はそんな甘酒屋に通うとりえのない次男坊。そこに明治の傑物たちが悩みを抱えてやってくる。今回は割とマニアックな人物が多い気がした。
弥蔵はうだつの上がらないダメオヤジというイメージで、明治の傑物たちが弔堂が選んだ本で悩みを解決されていくのを見ている。本シリーズでは最後にこの狂言回し役の正体が明かされるが、本作の弥蔵が一番衝撃的な正体となるのだろう。
後半では新選組の斎藤一が名前を変えて登場してくる。それまでに弥蔵が様々な人物とかかわり弔堂を紹介してきたことで、繋がりができてくる。弥蔵が実は江戸末期の暗殺者であり、坂本竜馬を殺害していたと衝撃的な告白をする。
このシリーズをどれだけ楽しめるかは、登場してくる人物をどれだけ知っているかにかかっている。探偵小説を書く人物や思想に関して語る人物、竹久夢二についてもほとんど知らなかったので、特別な印象はない。
明治の傑物が実はこんな悩みがあり、真実はこうだった、というのがわかり楽しめるのだが…。弥蔵が暗殺者として、新選組よりもおもてにでない暗殺を繰り返し、そのことで時代が大きく変わったことを悔いている描写がある。ただ、その暗殺者についても事前知識がないため、特別なインパクトはなかった。
自分の知識量を試される作品だ。
おしらせ
感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp