さようなら、私 


 2023.8.31      特殊な状況の女性3人を描いた物語 【さようなら、私】

                     
さようなら、私[ 小川糸 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
2つの中編と1つの短編で構成された本作。恐らくだが、作者のエッセイ「私の夢は」で言及されていたモンゴル旅行とカナダ旅行をベースとしたような中編がある。初恋の相手であるナルヤとモンゴル旅行をした私。モンゴルで貧しい旅が肌に合わずに混乱する様がメインに描かれている。このあたりは、作者のエッセイでは語られていないが、本人がモンゴル旅行をして肌で感じたことなのかもしれない。

ホームレスの母親から逃げるように、生まれ故郷であるカナダを旅する女。カナダでの生活が快適というのはエッセイで語られていたが、何もかもから逃げ出した先がカナダというのはなんだかよい。旅は人の人生観を変えるというが本作はそのパターンなのかもしれない。

■ストーリー
中学時代の同級生が自殺した。お別れ会のために帰郷した私は、7年ぶりに初恋の相手ナルヤに再会する。昔と変わらぬ笑顔を向けてくれる彼だったが、私は不倫の恋を経験し、夢に破れ仕事も辞めてしまっていた。そんな私をナルヤが旅に誘い……。会社が嫌い、母親が嫌い、故郷が嫌い。でも、こんな自分が一番嫌いだった。だから私は旅に出ることにした。

■感想
それぞれ辛い経験をした女性3人を主人公とした作品。舞台がモンゴル、カナダ、商店街となっている。モンゴルでは年上の男性と不倫した女が、初恋の相手とモンゴル旅行をする物語だ。まだ恋人同士ではないふたり。

モンゴル生まれの男と、モンゴルに免疫のない女が、モンゴルを旅行するとどうなるのか。モンゴルでは日本の常識は通用しない。エッセイではのんびりと自然に囲まれた良い場所というイメージがあったが、作中ではかなり過酷な旅が描かれている。不倫をした女の逃げ場所としてはベストなのかもしれない。

実の母親がホームレスになった女は、自分の故郷を訪ねるためにカナダへ旅行する。このカナダ旅行もエッセイで描かれていたとおり、バンクーバーは非常に整備されて暮らすのにはベストの場所らしい。カナダで癒され、母親が自分にしてきた辛いことを癒す旅となっている。

カナダでの旅で様々な決断をする。生活を助けてくれた叔母や恋人の存在。幼少期の辛い経験を乗り越えることができるのか。旅先では様々なことを考えるのだろう。最終的にはトラウマを乗り越え前に進んでいるのが良い。

ラストの短編は子供を亡くした女が、失意の中でたどり着いた先は…。幼い子供を亡くした夫婦は離婚する確率が高い。それは一緒にいるだけで子供のことを思い出すからだろう。何もかも捨てて逃げ出したくなり、消えたくなる気持ちなのだろう。

たどり着いたのは、母乳を吸わせる風俗だった。お客は目隠しをして母乳を吸う。特殊な風俗であり、そこに勤務する人はそれぞれ特殊なバックグラウンドをもっている。子どもが死んでも母乳が出続けるのは、確かに常に責められている気持ちになるかもしれない。

特殊なバックグラウンドをもつ3人の女性の物語だ。



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