三体0【ゼロ】 球状閃電 [ 劉慈欣 ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
「三体」シリーズの前日単としての物語。期待した展開ではなかった。三体世界につながる何かが描かれると思ったのだが、全く別の物語となっている。強引につながりがあるとしたら、後半に少しだけ地球外の観察者がいるというくだりなのかもしれない。物語は球電という火の玉のようなものを解析し兵器として運用することを目的とする流れだ。
相変わらず作者の技術的な展開というか、量子力学の説明は非常にわかりやすくワクワクしてくる。球電がどのようにして存在するのか。最終的にはマクロ電子の話やマクロ原子。そして、量子的な存在となり、観察者がいない限りは生きているのか死んでいるのかわからない状態という、不可思議な状態となるのは強烈だ。
■ストーリー
激しい雷が鳴り響く、14歳の誕生日。その夜、ぼくは別人に生まれ変わった――両親と食卓を囲んでいた少年・陳(チェン)の前に、それは突然現れた。壁を通り抜けてきた球状の雷(ボール・ライトニング)が、陳の父と母を一瞬で灰に変えてしまったのだ。自分の人生を一変させたこの奇怪な自然現象に魅せられた陳は、憑かれたように球電の研究を始める。その過程で知り合った運命の人が林雲(リン・ユン)。
軍高官を父に持つ彼女は、新概念兵器開発センターで雷兵器の開発に邁進する技術者にして若き少佐だった。やがて研究に行き詰まった二人は、世界的に有名な理論物理学者・丁儀(ディン・イー)に助力を求め、球電の真実を解き明かす……。世界的ベストセラー『三体』連載開始の前年に出た前日譚。三部作でお馴染みの天才物理学者・丁儀が颯爽と登場し、“球状閃電”の謎に挑む。丁儀がたどりついた、現代物理学を根底から揺るがす大発見とは?
■感想
最初に球電の描写があり少年・陳の両親が焼け死んだ。三体0とタイトルがついているので、単純に球電は三体世界が地球に送り込んだ兵器なのかと思った。球電の研究に心血を注ぐ人々を描いている。前半までは球電の謎は深まるばかり。
あらゆる手段を講じたとしても球電は解明できない。ついにはロシアの研究者から、一生をかけても解明できないので、やるだけ無駄だとアドバイスされる。世の中の不思議な物理現象を再現性をもって解明するのは相当に難しいことで不可能に近いのだろう。
三体で登場した丁儀が登場してから物語は変化していく。球電の謎が解き明かされ、その特殊な性質が明らかとなる。現実世界ではまだ解明されていないが、まさに球電が本当に存在するようなワクワク感がある。球電はターゲットとした物以外はすべてすり抜けてしまう。
IC集積回路だけをターゲットとした場合は、あらゆる機器の外見は変化がないが、内部の回路はすべて燃やされて灰となる。この恐怖の兵器を開発し、最初に実践に投入されたのは…。ターゲットが人間となると、まさにこれほど恐ろしい兵器はない。
後半からは兵器開発の問題や、球電を使った戦争での戦い方が描かれている。恐怖の兵器であっても防御方法はある。さらに発展させるためにはマクロ原子を探しだし…。あまりに危険な兵器とわかると開発は中止を宣言されるのだが…。開発者は実験を継続しようとする。
本作の中で最もよくわからない部分は量子化だ。人が観察した瞬間にそのものは存在をなくす。誰も観察していない状態であればそのものは存在する。これをどうやって証明するのか。
常人では考えつかない世界が描かれている。