オリンピア1996 冠(コロナ)廃墟の光 


 2023.1.23      アトランタ五輪観戦記 【オリンピア1996 冠(コロナ)廃墟の光】

                     
冠<廃墟の光> オリンピア1996 (新潮文庫) [ 沢木耕太郎 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
アトランタオリンピックを観戦した作者の観戦記。すでに20年以上前のオリンピックなので、よく覚えていない。当時、アトランタで爆破テロ事件が起きていた印象はない。東京オリンピックが開催された今、アトランタでは今よりも日本人のメダルは少なかった。確かにそんな印象はある。柔道でメダル有力と思われた者たちが負け、野球では思いのほかアマチュアの日本が大活躍した。

当時はアマチュアで、今はプロとなり引退した選手の名前が多数登場してきた。アトランタではメインの移動手段であるバスの運転手がボランティアなので、道がわからずにバスが右往左往するという経験をしている作者。アトランタの夏の暑さと、当時の熱量を感じずにはいられない作品だ。

■ストーリー
近代オリンピック百年の節目となった1996年大会は、父祖の地アテネを押しのけ、グローバル資本を背景にもつスポンサーとテレビ局によってアメリカ・アトランタに持ち去られて開幕。著者は全日程をつぶさにレポートしつつ、五輪はいまや「滅びの道」を歩んでいるのではないかという仮説を抱くのだった……。一見華やかだが、巨体に悶え、岐路に立たされる五輪の姿を見出した最前線傑作ルポ。

■感想
アトランタ五輪を現地で取材する作者。作者の独自の目線での観戦日記とでもいうのだろうか。印象的なのは、当時インタビューした選手たちとの会話だ。特に女子バレーが弱くなった時期であり、大林素子がひとり気を吐いていたという部分がよくわかる流れだ。

その他、野球に関してはアマチュア野球がキューバには負けたが、アメリカには勝っている。当時はアマチュアであっても、今はプロとなりメジャーに挑戦した選手などもいたりと、それなりに懐かしさを感じさせる流れだ。

バス移動が主となっているが、そのバスは激しい渋滞で時間がよめないというのもある。ドライバーがボランティアのため、道に不慣れで迷ったりもする。それすらもナアナアで済まされる流れがある。バスが故障したら、次のバスを待つかタクシーで移動するか。

メディアセンターや宿の食事など、取材だけでなくアトランタでのオリンピック観戦におけるおまけ部分も充実している。時間帯が重複した競技に対しては、どちらを見るかを悩んだりもする。とりわけ、女子バレーを頻繁に観戦しているのが印象的だ。

オリンピックなので勝者もいれば敗者もいる。とりたてて、作者は敗者側にすすんでインタビューしているような気がした。闘いに敗れ、その後、どうするのか。金メダルと銀メダルでは大きく価値が異なる。その後の人生にも大きく影響してくる。

そのため、銀メダルでも落胆する者もいれば、メダルがとれて大喜びする女子マラソンもある。それぞれの悲喜こもごもをちょっとシニカルな視点で描いている。ごく普通の観戦記ではないのは間違いない。

作者独自の目線が良い。



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