もっと悪い妻【電子書籍】[ 桐野夏生 ]
評価:3
桐野夏生おすすめランキング
■ヒトコト感想
六作の短編を収録した本作。タイトルに「もっと」とついているので、かなり悪い妻が描かれているのかと思いきや…。そこまで悪いという感じではない。俗にいう主婦の不満というか…。「みなしご」は妻と死別し資産のアパートの取り壊しを計画するが、そこに住む中年女性だけが残ることになり…。主人公の男は親切心で店子の女性に転居先を紹介するのだが…
中年男の一人暮らしは、何かと不自由であり、身の回りの世話をしてくれる女性がいればよいのだが…。店子の中年女性と結婚することを決意するのだが…。ラストで店子の女性に息子がいることが判明する。これが何が悪いのか?特に悪い妻という印象はない。そのほかの短編も、あえて結末まで描かない展開が続いていく。
■ストーリー
男たちの身勝手さを、一行で打ち砕く桐野文学の極北!夫公認のもと、元恋人と自由な時間を過ごす妻を描いた表題作「もっと悪い妻」など、計六作の短編を収録。「麻耶は大事だと思っている人が他にいるの?」「いるよ。男でも親友になれるよ」「それはそうだろうけれど。困ったな」(「もっと悪い妻」より)ネット上で〈悪妻〉と批判されることに悩むバンドのヴォーカルの妻を描いた「悪い妻」。妻と離婚した後、若い女性にしつこく迫る壮年の男性の哀歓を伝える「武蔵野線」など、男と女のカタチを切り取った現代の「悪妻論」。
■感想
「悪い妻」は、バンドのボーカルの妻となり、自分はバンドを引退し夫の仲間からは悪妻と言われることに怒りを感じていた。夫だけがバンドをし、自分がバンドができないことが不満のひとつ。ファンの手前、バンドの建前上ではボーカルの妻は悪妻で愚痴や悪口をファンに向けて行うことでファンのガス抜きをしている。
これは悪妻でないだけにより怒りがわいてくるのだろう。夫が全く家事や育児をしない。そして、ファンの間では勝手に悪妻にされる。悪い妻でなくても不満がたまるのは当然だろう。
「武蔵野線」は、53歳のタクシーの運転手がトンネル内で別れた妻の義理の父親を見た気がした。若い店員に恋をした中年男が別れた妻に久しぶりに電話をして翻弄される物語だ。まず若い店員に言い寄るというのが少しやりすぎな気がした。
店員の女は気持ち悪がりバイト先をやめてしまう。そのことにショックを受けた男は元妻に電話をするのだが…。女々しい感じがすさまじい。そして、別れた妻は義理の父親の幽霊かと気にする元夫に対して、あえて混乱するようなことをいう。まぁ、いじわるであることは間違いない。
表題作である「もっと悪い妻」は確かに強烈だ。不倫が当たり前になり、そのことを夫も知っている。夫公認での不倫。相手の男にも、奥さんに話をしているのか?なんてことを聞いたりもする。妻が浮気していることを知りつつ別れない夫の心境が語られている。
普通ではないことは間違いない。夫に対しても不倫していることを隠さないのがすさまじい。仮に夫に知られていたとしても、こそこそと不倫するのがマナーではないだろうか。夫がないがしろにされているという点ではもっと悪い妻かもしれない。
すべての短編がかなり短くさらりと読めてしまう作品だ。