物語の種 [ 有川ひろ ]
評価:3
有川ひろおすすめランキング
■ヒトコト感想
有川浩が他者から物語の種となるテーマをもらい、それを元に短編を作成する。身近なエピソードや実話をベースにしているので、それなりに真実味がある。印象的なのは第四話の中学生女子が実際に経験したエピソードを元に描かれた短編だ。作者の作品である「図書館戦争」を好きだと言ったら…。思春期の男子からかけられた心無い言葉。
言った本人には悪気はないのかもしれないが、言われた方はいつまでも覚えている。作者の本がきっかけということで、その呪いの言葉から解放させるために作者が考えた手段が描かれている。いつまでも心に残すべき言葉ではない。さっぱりと忘れて前に進むのが正解なのだろう。その他の短編も、この物語の種からここまで連想したのか?と驚かされる短編もある。
■ストーリー
第一話 SNSの猫 SNSで目にした保護猫に心を鷲づかみにされた主人公。ある日、事件が起きて……。第二話 レンゲ赤いか黄色いか、丸は誰ぞや 祖母を亡くした妻、父を亡くした旦那。二人の会話から見えてきたのは……?第三話 胡瓜と白菜、柚子を一添え静岡生まれの旦那の実家にて、高知生まれの妻は何を思う?第四話 我らを救い給いしもの中学の社会の時間にクラスメイトが発したある意見に、主人公は痺れた。
第五話 ぷっくりおてて小学生の夏休みに祖父の家に預けられた主人公の、ほのぼのハッピーな成長譚。第六話 Mr.ブルーある家電メーカーで出世街道驀進中の研究所長には、意外な秘密があった。第七話 百万本の赤い薔薇ある夫婦の、40年にわたる結婚記念日の物語。第八話 清く正しく美しくエステサロンに勤める主人公。強欲な店長の元で働くことに悩んでいて……。第九話 ゴールデンパイナップル 祇園祭によさこい祭。祭の復活は、やっぱり嬉しいもので。第十話 恥ずかしくて見れないある家電メーカーで働く主人公は、3歳年上の先輩のことが気になっていた。
■感想
第五話は、両親が自由になりたいからと、無理やりおじいちゃん子ということにされ、祖父の家に預けられた主人公の物語だ。おばあちゃんがいない祖父の家というのは、孫からするとハードルが高いかもしれない。
自分もそうだが、祖父は気難しいイメージがある。田舎暮らしでの、想定外なハッピーな暮らし。両親が無理やりつけた設定がいつの間にか真実となる。その後、主人公が結婚する際には、また新たな設定が付け加えられていた。ありそうな設定を描くのがうまい。
第六話は、リモート会議で映り込んだ上司の背景には、宝塚のポスターと思わしきものが映り込んでいた。気難しいミスターブルーとあだ名がある取締役。そんな人物が宝塚を趣味としているということで、途端に打ち解ける。
宝塚のファンが通常よりも熱量が高いこと。厳しく完璧主義な上司が、趣味のことについて主人公と熱く語り合うこと。厳しい上司の別の一面が垣間見える面白さが描かれている。このエピソードの続きは第十話でも描かれているが、平社員と取締役が同じ趣味を共有する面白さが描かれている。
第八話は、エステサロンでパートとして勤務する主婦の物語だ。エステ初心者が、簡単な指導だけでプロのエステティシャンとして働く。業界の過酷な現実や、利益を得るためには大変な努力が必要なこと。店長は怪しげな飲み物を高額で売りさばきもうけようとする。
常に従業員の数が限界ギリギリであり、時給も最低賃金よりも安いとなると働くメリットがないのだが…。子持ち主婦が時間に融通のきく仕事を探すのは大変なのだろう。一斉に辞める下りは爽快感がある。
他者のネタでありながら、作者の色が存分にでている短編集だ。