めだか、太平洋を往け 


 2022.5.19      マジメすぎて煙たがれるクラスの優等生女子 【めだか、太平洋を往け】

                     
めだか、太平洋を往け (幻冬舎文庫) [ 重松清 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
教師を引退したアンミツ先生が成長した教え子たちと交流する。息子夫婦が事故死し、血のつながらない孫を引き取ることになるなど、序盤からいきなりハードな展開となる。大人にとってよい子とはどんな子のことを言うのか。孫は変わった子ということで、学校になじめずにいた。不登校児童である孫の心の変化を探りつつ、アンミツ先生が元教え子たちと再会する。

教え子たちは、それぞれの人生を歩んでいるのだが、末期がんで余命わずかのヒデヨシや、教師として頑張っているが孤立しているテンコさん、被災地復興に力を注いでいるのだが、自分の将来を悲観視しているキック。その3人とアンミツ先生を中心として物語はすすんでいく。何が正しいのかわからなくなる作品だ。

■ストーリー
小学校教師を引退した夜、息子夫婦を事故で失ったアンミツ先生。遺された血縁のない孫・翔也との生活に戸惑うなか、かつての教え子たちへこんな手紙を送る。〈先生はみんなに「太平洋を泳ぐめだかになりなさい」と言いました。でも、ほんとうに正しかったのでしょうか〉。返事をくれた二人を翔也と共に訪ねると――。

■感想
印象的なのはテンコさんのエピソードだ。教師としてクラスで二十一人二十一脚を推進しながらクラスの一体感を高める。テンコさんの言うことは正論だが、正論すぎて逆に周りから煙たがれる。よく考えたらこんな感じの小学生女子は確かにいた。

優等生ではあるが、微妙に周りから煙たがれる存在。そのまま大人になると、さらに周りからは浮いてしまい、最後には陰口を叩かれる存在となる。テンコさんは逆に言うと、そんな自分にしか存在意義を見出せなかったのだろう。正しいとは何かを考えさせられる。

ヒデヨシは末期がんで余命わずか。にもかかわらずアンミツ先生の教え子であるテンコさんやキックを教え子の後輩として面倒を見ようとする。何が幸せなにかをヒデヨシが問う場面があるのだが、強烈だ。両親を亡くしたアンミツ先生の孫は幸せなのか。

末期がんで死ぬヒデヨシは幸せなのか。家族をもたず、長生きすることが幸せなのか。結局は答えはでない。ヒデヨシが最後の最後まで自分がボロボロの状態でも他者のために何かをしようという思いは伝わってくる。

キックは復興支援として横浜から地元に戻り支援活動をしているのだが…。横浜では派遣として仕事をしている。結婚せず正社員でもないキックにキックの父親は否定的となる。このあたりは難しい問題だろう。被災地で就職することもできるかもしれないが、地元の人の就職先を奪ってしまうとキックは考えている。

自分の幸せよりも、他者を優先する。さらには、キックの心の中には地元を捨てたと思いこんでいる部分もあるのだろう。

何か明確な答えがでるわけではないが、考えさせられる作品だ。



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