2023.12.12      作者の人生を読まされている気持ちになる 【刀】

                     

評価:3
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■ヒトコト感想
作者の人生をなぞるような小説だ。本作の主人公である氏家トオルは、作者の分身なのかもしれない。これまでの様々な作品で作者が経験したことがあちこちにちりばめられている。「白仏」での祖父の話も登場しており、あの中山美穂はナナとして登場してくる。すべてがノンフィクションではないのだろうが、どうしても作者が本作のような経験をしたのでは?と思わずにはいられない。氏家は家にあった刀に魅せられ、ヒカルという架空の人物との会話を続ける。

特にフランスでの苦労が濃密に描かれている。作品としては中山美穂との離婚前なので、ナナが子どもを産むであろう場面で終わっている。氏家は明らかに作者の分身として描かれている。

■ストーリー
幼い頃から魂に棲み着いた一本の刀が、私を脅かす。すべてを書け、お前のすべてを、と。東京の郊外に生まれた少年が、ロックへ、映画へ、文学へと飛翔するまで。二度の離婚と三度の結婚を経て、女優ナナとパリに漂着するまで。そして真実の愛、運命と出逢うまで。

■感想
幼いころに刀に魅せられ、ヒカルという自分にしか見えない人物との交流を続ける。青年期にはロックに小説にと多彩な面を示している。地元での問題や、やんちゃぶりも描かれている。作者の他作品やエッセイでさんざん描かれてきたことなので新鮮さはないが、面白さはある。

もう頭の中には氏家は作者である辻仁成でしかない。ヒカルの存在は物語に変化を生み出すための存在なのだろう。青年期では自由を謳歌するためには自分に責任を持つ必要がある。ロックに文学と畑違いのふたつで成功する作者はやはりすごい。

作中では作家としての活動の中で、より創作活動を広げることになる。それが映画製作やシナリオ執筆だ。映画業界のしきたりや芸能界の雰囲気にのまれていく氏家。硬派な氏家が戸惑う場面は、作者が感じた戸惑いと同様なのだろう。

女優と知り合いにもなる。そこから、フランスへの興味が強くなる。合間にはソ連からアメリカに亡命したパイロットの話も登場してくる。幼少期にソ連のパイロットの戦闘機が日本にやってきたことが相当なインパクトになっているのは確実だ。

氏家はナナという女優と付き合い、フランスで結婚し新婚生活を続ける。このあたりは明らかにナナは中山美穂なのだろう。売れっ子女優と結婚したことで世間で話題となる。フランスでの生活はナナも前向きであったが言葉や文化の違いで苦労する部分が描かれている。

はたから見ると女優がいきなりフランスでの生活というのは本当にできるのか?と思っていた。結果論でしかないが、最終的には離婚するのだが、かなりの長期間夫婦生活を続けてきたので、成功の部類に入るのだろう。

作者の人生を読まされている気持ちになる。



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