白仏 


 2022.5.1      作者の祖父にあたる人物のほぼ実話だ 【白仏】

                     
白仏 / 辻仁成
評価:3
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■ヒトコト感想
作者である辻仁成の祖父の話をベースとした物語だ。鉄砲屋の稔が故郷に人の骨で作った白仏を建てる。ここまでは事実でそれを作者なりに脚色したのが本作だ。幼少期の経験やその後、大人となり鉄砲屋が戦争の景気による大繁盛する。その後、様々な業種に対応していくが、最後にはしっかりと海苔の加工製造機器の販売として成功する。

白仏を作るきっかけとなったのは、島に住む人々の墓がいずれ足りなくなることを危惧してのことらしい。昭和初期の独特な雰囲気は伝わってくる。家族総出で家業を手伝うことや、幼少期に憧れたお姉ちゃんが別の村に嫁ぎ、その後に死体となって村に戻ってくる。独特な風習や、時代的な流れなどを感じずにはいられない作品だ。

■ストーリー
筑後川下流の島に生まれた稔は発明好きで戦前は刀鍛冶、戦中は鉄砲修理、戦後は海苔の加工機製造などをしてきたが、戦死した兵隊や亡き初恋の人、友達、家族の魂の癒しのため島中の墓の骨を集めて白仏を造ろうと思い立つ。明治大正昭和を生きた祖父を描く芥川賞受賞第一作。

■感想
発明好きな稔の人生が描かれている。作者の祖父である稔のほぼ実話ということなのだが…。日ロ戦争に勝利し浮かれた日本の状況が序盤に描かれている。鉄砲屋として成功し、その後戦争を経験する。昔の人の人生としたら戦争を経験するのは当たり前のことなのかもしれない。

初恋の人が、戦争帰りの軍人と馬小屋でいちゃいちゃしている。その場面を覗き見てしまう心境はよくわかる。初恋に敗れ、そのことをその後も引きづっていく。幼少期の経験というのは、その後の人生に大きく影響するのは間違いない。

鉄砲屋で成功したが、その後変化がでてくる。発明家としての稔が小型の機関銃を発明する下りは複雑だ。自分が発明した機器により多くの人が死ぬことになる。それはまさに、アインシュタインが原爆を発明したことと近いのかもしれない。

機関銃の方がよりその破壊力をリアルに感じることができるため、人の死を身近に感じるのだろう。事業に失敗する稔だが、執念で復活する。チャレンジ精神というか、新しいものに挑戦する気概としては、作者にも近いものがあるのかもしれない。

海苔の加工製造機を作り起業家として成功した稔。第二の人生として事業は家族に任せ、そこからは白仏を作ることに心血を注ぐ。タイトルにある白仏と字ヅラだけ見てもよくわからなかったのだが、人の骨で作られた仏様ということらしい。

島で亡くなった人々をまとめて供養するための仏様。それを作者の祖父が実際に作り上げたということに衝撃をうけずにはいられない。稔の幼馴染の自殺や憧れの人の死、子供の死など人生には辛いことが沢山ある。それらを乗り越えるためにも必要なことなのかもしれない。

ラストで実話に近いというコメントがあり、それを読んで衝撃をうけた。



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