一ノ瀬ユウナが浮いている 


 2022.7.10      死んだ幼馴染との期間限定の再会 【一ノ瀬ユウナが浮いている】

                     
一ノ瀬ユウナが浮いている [ 乙一 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
乙一の作品。初期の「夏と花火と私の死体」に近い雰囲気を感じてしまう。幼馴染のユウナが突然死んだ。主人公だけがユウナの姿を見ることができる。死者と会話をする系の物語であり、お互いが意識しつつも決定的な言葉を言わないまま離れ離れになったふたりの微妙な雰囲気が伝わってくる。特別な線香花火に火をつけたときだけユウナと再会することができる。

ユウナがステレオタイプの幽霊のように、浮き上がり壁などもすり抜けることができる。なぜか主人公の体だけはつかまることができる。宇宙空間で支えがないとフワフワと浮いてしまうような感じだろう。タイトルは死んだあとのユウナの状況を表現しているのだろう。期間限定の再会というのはくるものがある。

■ストーリー
幼馴染みの一ノ瀬ユウナが、宙に浮いている。十七歳の時、水難事故で死んだはずのユウナは、当時の姿のまま、俺の目の前にいる。不思議なことだが、ユウナのお気に入りの線香花火を灯すと、俺にしか見えない彼女が姿を現すのだ。ユウナに会うため、伝えていない気持ちを抱えながら俺は何度も線香花火に火をつける。しかし、彼女を呼び出すことができる線香花火は、だんだんと減っていく――。

■感想
序盤はユウナと主人公の微妙な関係が描かれている。幼馴染で仲が良い。お互いを意識しているが、付き合ったりはしない。ユウナは可愛らしく、周りからはユウナと主人公が付き合っていると思われている。人気のユウナなので、周りから嫉妬されたりもする。

週刊少年ジャンプが好きなユウナというのも良い。男子が好きそうな趣味をもち、主人公と気さくに話をする。どちらかというとユウナは主人公のことを男として意識はしていないのかもしれない。それでも幸せな主人公であった。

ユウナの突然の死は衝撃的だ。雨の日の水難事故で女子高生が死亡する。何が起きるかわからないのが人生なのだが、あまりにも辛すぎる。そこから、線香花火に火をつけることでユウナに出会えることに気づく主人公。

本作では、あまりにユウナのことを思い続けた主人公が、勝手に頭の中に妄想を作り上げているのでは?という疑いすらかけている。ユウナが実際に存在し、主人公にだけ見え話ができること。主人公の体に捕まることで移動ができること。ジャンプの連載漫画の続きが読みたいという些細な願いも良い。

線香花火の数は限られている。まだ残っていると思っていた花火が、親戚の子どもが勝手に火をつけて遊んでおり、その瞬間、もう二度とユウナと会えないと気づく。この流れが良い。あらかじめ分かった上での別れと、まだ会えると思っていたが実はもう会えなくなっていたことの違いだ。

その後、偶然手に入れた特殊な線香花火により再びユウナと再会したのが、主人公が30代に近づいたころだった。ユウナは女子高生のまま。時を経ての再会というのも感動するものがある。

この手の作品は作者の得意分野なのだろう。



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