ひとりでカラカサさしてゆく 


 2022.12.22      老人たちが猟銃自殺するのには訳がある 【ひとりでカラカサさしてゆく】

                     
ひとりでカラカサさしてゆく [ 江國香織 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
八十過ぎの三人の男女が、大晦日に猟銃で自殺した。その後の家族や関係者たちを描いている本作。何かに悲観しての自殺ではない。何不自由ない生活をしていた3人の男女がなぜ?と周りが理解できない部分が描かれている。十分生きたということなのか。なんとなくわからなくもない。

残された人々が悲しんだり、衝撃的な死に方なので、残された周りの関係者に迷惑をかけるのは間違いない。それでも親友であった3人が死を選んだのはなぜなのか。それぞれの境遇が多少違うことと、生涯独身で過ごし、関係者の種類も変わるというのもある。それぞれの親友や家族たちが独自に交流をもつような流れもある。残された者たちの日常も描かれている。

■ストーリー
ほしいものも、会いたい人も、ここにはもうなんにもないの――。大晦日の夜、ホテルに集まった八十歳過ぎの三人の男女。彼らは酒を飲んで共に過ごした過去を懐かしみ、そして一緒に命を絶った。三人にいったい何があったのか――。妻でも、子どもでも、親友でも、理解できないことはある。唐突な死をきっかけに絡み合う、残された者たちの日常。人生におけるいくつもの喪失、いくつもの終焉を描き、胸に沁みる長篇小説。

■感想
序盤では自殺するまでの男女の交流が描かれている。これから猟銃自殺するとは思えないほど、ごく普通の会合というか、久しぶりに会う友人との会話のような雰囲気が漂っている。その後、家族や友人目線で3人が猟銃自殺をしたことを知る。

残された者からすると、何も心当たりがない。猟銃自殺するとは思いもよらない。自殺するような兆候がないのは、自殺者の周辺の証言としてはありがちだろう。八十歳を超えた老人世代が、この先の人生を考えての決断と思えてしまう。

残された家族や親友たちは困惑する。当然だろう。若者たちの自殺とはまた趣が異なる。孫や親友たちは、死んだ者たちの思い出を語る。それぞれが、どのような交流があったかが深堀され、さらには残された者たち同士で交流をもったりする。

お互いが死んだ相手のことを理解できないことを共有する。独特な死を遂げた者の親戚や、知り合い同士で何か慰めあいのような雰囲気も感じられた。悲しみに暮れるというよりは、なぜという疑問の方が強いのだろう。

八十代の男女3人は、自殺するその日まで取り乱すことなく普通にその日を迎える。本人たちの心境も描かれており、当たり前に新年を迎えるような雰囲気だろう。これ以上生きたとしても、何も変わらず変化がなければ…。夢や希望、この先何かを楽しみにするというのがないのだろうか。

何か深刻な病気なわけでもなく健康な八十代の男女が猟銃自殺するというのは、それだけで衝撃的だ。家族や親友がどれだけその心境を理解しようとしても、決してできないと思い知らされる作品だ。

作者の作品は、「去年の雪」のように多数の人々の視点が入る物語が多い。



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