人は思い出にのみ嫉妬する 


 2023.2.14      水アレルギーの恋人 【人は思い出にのみ嫉妬する】

                     
人は思い出にのみ嫉妬する / 辻仁成
評価:3
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■ヒトコト感想
水アレルギーを抱える栞の恋愛物語。栞の恋人の戸田には、過去に愛麗という彼女がいた。栞は今は自殺してこの世にいない愛麗へ嫉妬している。戸田との恋人関係で、常に戸田はどう思うかを気にし、愛麗であればなんて答えたかを気にすることになる。この関係は辛い。遅かれ早かれ崩壊する関係のように思えるのだが…。

栞が水アレルギーというのもポイントかもしれない。体に水がかかると痛みが起きる。戸田との関係や、新しい恋人との関係も描かれている。後半では戸田が衝撃的な状況となり、栞の愛が試されることになる。人は思い出にのみ嫉妬するというタイトルのとおり、元恋人が死んでいる場合、その思い出には絶対に勝つことができないのだろう。

■ストーリー
百万人に一人の「水アレルギー」を抱える女性・杉山栞。彼女は、恋人・戸田悠仁の心に不慮の交通事故で亡くなった周愛麗が生き続けていることに嫉妬する。「その人のいい思い出になることが出来れば、人は、永遠を生きることが出来る」と言い残して亡くなった元恋人の思い出と葛藤する栞。そして、彼女が最後に達した結論とは…。「愛の魔術師」辻仁成、珠玉の一冊。

■感想
恋人の戸田には交通事故で亡くなった愛麗という恋人がいた。栞は何かにつけて愛麗と自分を比較し戸田に質問する。そんな質問をされる戸田の方の戸惑いはわかる。戸田がかなり年上であることから、栞を包みこむような雰囲気なのかもしれない。

水アレルギーの栞とのセックスは、栞に汗がつかないように細心の注意を払う必要がある。ぎこちない関係でありながら、栞にとっては何よりも幸せな時期だったのだろう。そこから、戸田との別れがあり、栞は新しい年下の恋人と付き合い始めることになるのだが…。

若い恋人との生活の中で、戸田に対する思いを忘れることができない。ここで、思わぬ形で戸田と再会することになる。戸田が交通事故にあい、植物人間となる。ここで栞は若い恋人を棄て戸田の面倒をみることになる。

意識がなくただ呼吸をしているだけの状態の戸田。そんな戸田を献身的に支える栞。これが本当の愛というものなのか。それまで戸田の思い出の中の愛麗に嫉妬しつづけた栞は変わっていく。若い恋人がそんな栞を見て危機感を覚えるのは当然だろう。

植物状態の戸田は体は動かせなくとも、瞬きだけはできる。これは意識があるが反応できない「ロックアウト状態とのこと」らしい。ちょうど、「潜水服は蝶の夢を見る」と同じ状態かもしれない。自分は瞬きでしか意思表示できない。そんな状態の自分を献身的に面倒見る栞がかわいそうで仕方がない。

戸田は栞に対して殺してくれと依頼する。ロックアウト状態から抜け出せる兆しがないのなら、それは当然の選択なのかもしれない。本作は栞の親友であるカタリテという人物が描いているというのが特徴だろう。

実話っぽく感じたのだが、まったくの創作だろう。



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