潜水服は蝶の夢を見る


 2010.3.31  左目の瞬きだけで本を書く衝撃 【潜水服は蝶の夢を見る】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
最初はよくわからない映画かと思っていたが、衝撃を受けた。左目の瞬きだけで本を書いたという事実。目以外はまったく動かすことができない恐怖。とっさに考えるのは、自分が同じ立場になったらどうなるかということだった。相手の話していることや、行動はすべて目を通して理解できるのだが、こちからからは何も伝える手段がない。あるのは瞬きでのコミュニケーションだけ。ジャンが感じるもどかしさとイライラは十分に伝わってくる。「死にたい」と伝えたジャンの気持ちも良く分かる。それが最終的に本を出すまでになるというのは、信じられないことだ。脳梗塞で倒れるまで、順風満帆な人生を謳歌してきたジャン。その失望感と、人の生きることへの執着というのは果てしないのだと思った。

■ストーリー

ジャン=ドミニクは3人の子供の父親。「ELLE」誌の編集長として、幸せで華やかな人生を送っていた。ところがある日突然、脳梗塞で倒れ、「ロックト・インシンドローム(閉じ込め症候群)」になってしまう。身体的自由を奪われ、唯一動くのは、左目だけ。そんなジャン=ドミニクに対し、言語療法士アンリエットは、瞬きでコミュニケーションをとる方法を考え出す。そしてある日彼は、瞬きで自伝を綴り始める。果てしない想像力と、記憶、そして生きることへの愛情でジャン=ドミニクは逆境を乗り越え、希望は少しづつ未来へと向かっていく・・・。

■感想
ジャンと同じような境遇になったら、未来に希望があるとはとうてい思えない。体以外は正常で、相手の言うこともすべて理解できる。しかし、体だけはまったく動かない。食べることも話すことも、小指一本も動かすことができない。ただ、左目のまぶたを動かすことだけが、自分の意思を相手に伝える方法だ。その状態を潜水服を着た状態と考えるジャン。記憶と想像力だけを日々の生きる糧としてきた男が、左目のコミュニケーションで本を書こうとする。途方もない作業の中をやりぬくジャンは信じられない精神力の持ち主だと思った。

倒れる前のジャンは「ELLE」の編集長で、何不自由ない生活をしていた。完璧と思われた人生におとずれる突然の落とし穴。家をでることができないヨボヨボの父親以上に、不遇な状況に追い込まれたジャンの後悔と苦悩の日々。突如としてジャンの想像の世界へと場面はうつり、そこではジャンの華やかな記憶と、自分が立ち上がることができればという願望の映像が続く。抗いようのない運命と厳しい現実を見せ付けるように、予定調和的な終わり方をしない本作。奇跡はそう簡単にはおきない。ラストにしっかりと立ち上がるジャンを想像したが、決してそうなることはなかった。

ジャン目線で描かれる本作。最初はジャンの視線で見ることのできる映像しかない。それが、中盤以降には、ジャン自身の姿も登場する。衝撃的な場面でもあり、家族や友達がショックを受けるのも当然だろう。以前のジャンを知っているものがいれば、このジャンの変わりようには驚かずにいられない。「ロックト・インシンドローム」でありながらも、二十万回以上の瞬きだけで本を書く。これがただの虚構ならば特別印象に残ることはない。本作がすべて事実で、実在したジャンが左目の瞬きだけで本を書いたという衝撃はとてつもなく大きい。

常人では想像できない世界を垣間見たような気がした。



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