日付変更線 下 (集英社文庫(日本)) [ 辻 仁成 ]
評価:2.5
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■ヒトコト感想
上巻から引き続き、日系アメリカ人のニックの過去が描かれている。フランスでドイツ兵と戦うニックに何が起きたのか。フランス人となり、素性を隠したニックの人生が明らかとなる。ニックの子孫であるマナはケインとの数奇な運命を感じずにはいられない。日系人ということがどれだけ影響があるのか。
戦時下ではアメリカ軍の中でも、日系人であることから、より祖国に忠誠を示す必要がある。ニック、ロバート、ヘンリーたちの戦時中での精神的な不安定さがこれでもかと描かれている。隣に寝ている同僚を思わず撃ってしまいそうになる。そこまで精神的に追い込まれた状態であれば、祖国を捨て、フランス人として生きる選択をすることもありえるのだろう。
■ストーリー
第二次世界大戦下、フランス戦線でドイツ兵と対峙する日系アメリカ人のニック、ロバート、ヘンリー。僕らは所詮、白人の弾除けなのか。“Go for broke!(当たって砕けろ)”を掛け声に戦う青年たちの心は次第に壊れ、行方も散り散りになった。あれから七十年、彼らの血を引くケインとマナは数奇な運命に導かれて出会う。歴史と信仰が交差するとき、生きることの本当の意味が姿を現す──。
■感想
ニック、ロバート、ヘンリーの精神状態はギリギリな状態となっている。日系人はしょせん白人の弾除けといわれる中で、当たって砕けろの精神で戦いにのぞむ。それら日系人の血を引く者たちが、自分の祖父たちの真実を知る。
戦争の過酷さと人種差別。命を懸けて戦う場合には、仲間のことが信頼できないと、それだけで大きく問題になる。隣で眠っている同僚を攻撃する可能性があるなど、精神状態が壊れてくると、何をしでかすかわからない。非常に恐ろしい状況だ。
現在のケインとマナのパートでは、マナの前にマナが追いかけ続けた男が現れる。ケインの恋のライバルと思われた男。マナからすると今まで姿を消していた愛しい人が、急に目の前に現れたとなると混乱するのは当然だろう。そこから、ケインはマナの気持ちをこちらに引き寄せるために動きだすのだが…。
驚きの展開となる。じつはニックが作り上げた謎の組織が、マナを後継者として狙っていた。それまでの日系人の苦悩から一気に物語の雰囲気が様変わりしている。
ニックがフランス人となった経緯がメインとなる。なぜ日系アメリカ人がフランス人として生活できたのか。ドイツ兵との闘いで負傷したニックが、あるフランスの老女に拾われる。ニックは息子を亡くした老女のフランス人の息子として生まれ変わる。
日系アメリカ人がフランス人となるために、周りをどのようにして取り込んできたのか。フランスのメイドをニックの奥さんとする。それなりにインパクトのある流れというか、フランスの裕福な老女はニックをフランス人とするためにあらゆる手段を用いることになる。
ラスト間際の大きな路線変更には驚いた。