八月の御所グラウンド 


 2024.6.1      死んだはずの名投手と野球をする 【八月の御所グラウンド】


                     
八月の御所グラウンド [ 万城目学 ]
評価:2.5
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■ヒトコト感想
万城目学の独特な世界観が反映された2つの中編。都大路を走る女子学生が見た謎の集団。草野球大会に急遽やってきた謎の助っ人。どちらもメインの物語であるスポーツでの活動が終わったあとに、不思議な出来事に気づく。京都を舞台に心温まる物語となっている。都大路を走る駅伝女子。1年生で大抜擢された方向音痴の女子学生が見た奇跡が描かれている。

表題作である八月の御所グラウンドは、まさに京都版の「フィールド・オブ・ドリームス」だ。ベーブルースではなく、京都なので沢村栄治ということなのだろう。さらりと不思議な出来事が起きて、そのまま終わる。深い秘密や謎があるわけではないので、サラリと物語が終わってしまったような印象だ。

■ストーリー
死んだはずの名投手とのプレーボール戦争に断ち切られた青春京都が生んだ、やさしい奇跡女子全国高校駅伝――都大路にピンチランナーとして挑む、絶望的に方向音痴な女子高校生。謎の草野球大会――借金のカタに、早朝の御所G(グラウンド)でたまひで杯に参加する羽目になった大学生。京都で起きる、幻のような出会いが生んだドラマとは--今度のマキメは、じんわり優しく、少し切ない青春の、愛しく、ほろ苦い味わいを綴る感動作2篇

■感想
女子全国高校駅伝に初出場したチーム。急遽、補欠からアンカーに大抜擢された少女の物語だ。極度の方向音痴の少女なので、アンカーで走るルートを間違える恐れがある。1年でアンカーに抜擢されたことへの緊張と恐怖。

走っている途中での、謎の集団を見る。駅伝で必死に走っている少女は、どこまで冷静に周りを見ることができるのか。その謎の集団は実はこの世のものではなかった、ということなのだろう。方向音痴の少女を救った奇跡の物語となっている。

表題作である「八月の御所グラウンド」は、まさに京都版のフィールド・オブ・ドリームスだ。単位が足りない学生が大学を卒業するために教授から突き付けられた条件。早朝草野球に参加する。それに付き合わされた主人公。

素人ぞろいの草野球チームでまったく野球経験のない中国人の女性までも参加する。そこにふらりと現れた一人のおじさんと、二人の学生。助っ人として参加したことでギリギリ9人に到達する。草野球を成立させるために人数をそろえることが課題となっている。

勝つ負けるというよりも、そこに至るまでの過程がメインだ。ひとりのおじさんが突然オーバーハンドで剛速球を投げる。ふと昔の写真を見ると、それは伝説のプロ野球選手である沢村栄治と瓜二つだった。そのほかのふたりも過去に在籍した人物や、高齢なバーのママのお兄さんなどが登場してくる。

それらすべての人たちは、本来なら死んでいるはずの者たちだった。まさにフィールド・オブ・ドリームスで、死者たちが死んでからも野球がやりたいからと蘇ったという感じだ。

ファンタジー作品だ。



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