はるか、ブレーメン 


 2023.10.7      相手の走馬燈を見る能力 【はるか、ブレーメン】

                     
はるか、ブレーメン [ 重松清 ]
評価:2.5
重松清おすすめランキング
■ヒトコト感想
はるかの実家で生活したことのある老婦人が、走馬燈を描く旅に選ばれる。人の記憶を見ることができる能力がある人々がいる。それを活用し、走馬燈として死の間際に頭の中に思い描く記憶を操作できる。特殊な能力を身近にしたことで、はるかもその能力が開花する。本作のポイントは、それまで走馬燈のことを何も気にしていなかったはるかと同級生のナンユウが、他人の背中を触ることで記憶を見ることができる部分だ。

誰もが幸せな記憶ばかりではない。実は不倫しており、その時の後悔の気持ちや、息子に対しての思いなどを見てしまう場合もある。記憶を見る相手が他人ではなく自分の身内だったら…。その人の記憶の中で自分がほとんど登場しないのは悲しいことだ。

■ストーリー
小川春香、16歳。3歳で母に捨てられた彼女は、育ての親である祖母も亡くし、正真正銘のひとりぼっちだ。そんな彼女が出会ったのが走馬灯を描く旅をアテンドする〈ブレーメン・ツアーズ〉。お調子者の幼馴染、ナンユウととも手伝うことに。認知症を患った老婦人が、息子に絶対に言えなかった秘密。ナンユウの父が秘めていた、早世した息子への思い。様々な思い出を見た彼女は。人の記憶の奥深さを知る。そんな折、顔も覚えていない母から「会いたい」と連絡が来るのだが……。

■感想
はるかの生い立ちは強烈だ。育ての親の祖母がなくなり、ひとりぼっちとなる。母親ははるかを捨てて疾走。ナンユウは、自分の上に兄がいたが3歳で死んだので、両親は兄のことばかり思い出にあるのでは、と思い込む。それぞれが走馬燈を見る能力を得た場合、悩むことになる。

それぞれの事情と、さらには、はるかの家にやってきた認知症の老婦人の記憶関連の問題。良い息子が母親のことを考え走馬燈の整理を依頼したのだが…。実は母親は不倫をしていた。その衝撃的事実を知ったはるかとナンユウはどうするのか。。。

軸は不倫の記憶を消すのかどうするのかという部分だ。認知症を患った老婦人の記憶の中では、最後まで不倫に対する負い目と息子への申し訳ないという気持ちがある。息子も実は母親の不倫に気づいていた。これは辛い。すべてを受け入れた上で息子はどのような判断をするのか。

はるかたちが老婦人の不倫相手のところへ行き、不倫相手の記憶を見るのだが…。その不倫相手は相手で、それぞれ事情があり不倫をしていた。ただ、どちらも子供たちからの扱いは良いものではない。不倫の代償という描かれ方をしている。

はるかは行方不明だった母親から伯父経由で連絡がくる。余命わずかとなり母親ははるかに会いたいと連絡してきたらしい。ここではるかは会うか悩む。一度は合わない決断をしたのだが…。はるかが記憶が見えるのがポイントだろう。もし、母親と会いその記憶を見て、自分が登場しなかった場合の悲しさ。

さらには、死の間際に自分の思い残すことを無くしたいと思い、はるかと会う選択をした母親に対する怒りの気持ちもあるのだろう。残された者のことを考えない勝手な理論だ。

他人の記憶を見ることができる特殊能力だ。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp