灰の劇場 


 2022.4.24      中年女性ふたりの奇妙な同居生活 【灰の劇場】

                     
灰の劇場 [ 恩田陸 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
まるで作者の小説家人生そのものが物語になっているような作品だ。作中では同級生の二人の女性が心中したというのがメインとなっている。それを作中の「私」が、深堀し舞台化しようとする。女性二人の人生を私が想像し物語化をしている。「私」はまさに作者である恩田陸そのものだと思えてしまう。心中した女性二人は、恋愛や人生に悩む若い女性ではなく、四十代の中年となっている。

ふたりが何を原因として心中に至ったのか。過去の情報を整理し、「私」が想像をした物語となっている。ごく普通の人生を過ごしていた二人が出会い、そして同居し心中へと至る。その先の人生を悲観したわけではないのだろうが…。まるで近所へ買い物に行くように心中したふたりの心境は印象的だ。

■ストーリー
大学の同級生の二人の女性は一緒に住み、そして、一緒に飛び降りた――。いま、「三面記事」から「物語」がはじまる。きっかけは「私」が小説家としてデビューした頃に遡る。それは、ごくごく短い記事だった。一緒に暮らしていた女性二人が橋から飛び降りて、自殺をしたというものである。様々な「なぜ」が「私」の脳裏を駆け巡る。しかし当時、「私」は記事を切り取っておかなかった。そしてその記事は、「私」の中でずっと「棘」として刺さったままとなっていた。

ある日「私」は、担当編集者から一枚のプリントを渡される。「見つかりました」――彼が差し出してきたのは、一九九四年九月二十五日(朝刊)の新聞記事のコピー。ずっと記憶の中にだけあった記事……記号の二人。次第に「私の日常」は、二人の女性の「人生」に侵食されていく。

■感想
劇中劇というのだろうか。作者がある二人の女性の心中事件を調査し、どのような思いで生活していたのか。若い女性二人であれば、何か若さゆえの発作的な自殺というのがあると想像できる。実は心中したふたりの女性は四十代の中年女性であった。

その年代の二人が同居し、その後心中した。そこにどのような意味があったのか。確かに中年女性の同居というのは違和感がある。まっさきに同性愛を連想してしまうのだが、そうではない。この部分を作者が深堀している。

「私」は、二人を物語化し舞台化しようとする。なぜ?と深堀する過程で、ふたりの生活を作中で物語として描いている。それぞれをMとTとして架空の人物で描いているのだが…。このふたりの何気ない日々がリアルに描かれている。

Tが離婚し、たまたまMと同居することになる。Tは在宅勤務でMが外で仕事をする。うまく役割分担できているが、将来はどうするのかはまったく考えていない。確かに、妙齢の女性で二人暮らしが永遠に続くのは違和感がある。将来に対する悲観からの心中と考えてしまう。

衝撃的なのは、飛び降りにいたる経緯だ。何か大きな出来事があったわけではない。ちょっとした出来事がきっかけとして死へと繋がっていく。ブレーカーが落ちただとか、とんかつを揚げた油を処理する固めるテンプルを買い忘れたとか。そんな些細な出来事がきっかけとなり死ぬ。

二人が橋から飛び降りるために出かける場面では、ふらりと近所に買い物へ行くような雰囲気で部屋をでていく。自分たちが死んだあとを想像し、部屋のカギをかけるか開けてでるかを考えるなど、強烈な場面もある。

妙齢な女性ふたりの心中というのは、その裏にある何かを想像せずにはいられない。



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