母の待つ里 


 2022.11.25      疑似的に故郷を作るサービス 【母の待つ里】

                     
母の待つ里 [ 浅田次郎 ]
評価:2.5
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■ヒトコト感想
社会的にも地位があり何不自由なく暮らす中年が故郷を求める。セレブ向けのカード会員サービスとして、故郷を疑似的に体験させてくれるサービスということだ。大企業の社長が、故郷の母親を訪ねる。それはカード会社のサービスとして村ぐるみで会員をもてなすようになっている。故郷のない東京に住む者たちが、田舎の母親を求める。なんだかこの感覚はよくわからない。

自分と血のつながりがない田舎のおばあさんを母親として慕うことができるだろうか。サービスとしては新しく、様々なセレブたちがサービスを経験する。それぞれの現在の状況により、感じ方も異なってくる。リピートするほど田舎の母親に飢えている。もしかしたら母親を亡くしたような世代には感じるものがあるのだろうか。

■ストーリー
上京して四十年、一度も帰ろうとしなかった郷里で私を温かく迎えてくれたのは、名前も知らない母でした――。家庭も故郷も持たない人々の元に舞い込んだ〈理想のふるさと〉への招待。還暦世代の三人が半信半疑で向かった先には、奇跡の出会いが待っていた。感動が雪のように降り積もる。大切な人に今すぐ会いたくなる、永遠の名作誕生!

■感想
本作に共感できるのは、それなりに社会経験を積んで、根っからの東京人で両親が他界しているような人かもしれない。セレブ向けの画期的なサービスとして田舎の母親に会いに行くことを疑似体験できる。企業の社長などが経験するのだが…。

村全体がサービスを実現するためのエキストラとなっている。そのため、何も知らない社長がふらりと田舎に帰り、年老いた母親と共に過ごす。仲にはこのサービスについて話をしたりもする。あまりに田舎の母親にのめりこみ、サービスを抜きにして田舎に移住しようと考えたりする者もいる。

実社会では妻に離婚届を突き付けられた李、嫁いだ子供たちと疎遠になったり。仕事に精をだしすぎて婚期をのがし、ひとりで自由気ままに生活していたり。田舎の母親の元に帰る。それも、現実世界とはリンクしていないので、現実世界での小言を言われることはない。

俗世間のしがらみをすべて忘れることができるのは間違いないだろう。一時的な非日常感としては良いかもしれないが、リピートしたいとは思わない。サービスの一部と考えると、自分を息子として迎えてくれる母親に対してもどこか冷めた目で見てしまうかもしれない。

ラストではサービスを提供してきた田舎の母親が死んだと連絡がくる。これがサービスの一部なのかと考えたのだが…。現実のことだとわかる。葬式の場では同じようにサービスを受けた他の人々と出会うことになるのだが…。お互いになぜこんなサービスを利用しているのかなどの無粋なことはきかない。

どこか同士のような気分なのだろう。特殊なサービスを利用する寂しい中年たち。若い人や、普通に田舎がある人にとっては共感できないだろう。セレブの中年だけが感じることのできる心境かもしれない。

自分はこのサービスに共感できなかった。



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