晩秋行 


 2023.4.16      バブルの残り香がすさまじい 【晩秋行】

                     
晩秋行 [ 大沢在昌 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
バブルを経験した者たちが、バブル崩壊後、20億円もの車をめぐる争いとなっている。バブルの時代に地上げ屋でブイブイ言わせていた社長の二見がバブル崩壊後に行方不明となる。その際に、円堂の恋人である君香と共に失踪する。ハードボイルド小説ではあるが、銃を扱うだとか戦いというのはない。情報戦がすべてだ。

バブル時代の遺物たちなので、登場人物はのきなみ60代以上になっている。フェラーリスパイダーが那須塩原で走っていたとの目撃情報から二見と君香の存在を疑うことになる。今は居酒屋の店主となっている円堂が、君香に失踪した理由を聞くために二見を探し始める。血なまぐさい戦いなどはないが、バブルを経験した者たちのひりつくやりとりが描かれている。

■ストーリー
居酒屋店主の円堂のもとに、バブル時代、ともに荒稼ぎをした盟友の中村から電話が入る。当時、「地上げの神様」と呼ばれ、バブル崩壊後、姿を消した二見興産の社長の愛車で、20億円の価値があるクラシックカーの目撃情報が入ったという。20億円の車をめぐってバブルの亡霊たちが蠢き出す、大沢ハードボイルドの新境地。

■感想
バブル時代に荒稼ぎをしていた円堂。今は居酒屋店主として静かな生活を送っていたのだが…。昔の仲間の中村から連絡があり、二見の車を見たと情報を得る。ここから過去をさかのぼりながらの二見と君香の捜索がスタートする。

すでに30年もの時間が過ぎ去ってはいるが、執念深い者はいる。特にバブル崩壊時期に二見により多大な迷惑をこうむった者たちにとっては、二見は許せない人物なのだろう。30年という時間でも消えない恨みというのはすさまじい。二見が所持していると思われるフェラーリスパイダーを探す物語となっている。

円堂と中村は二見の車を見たという情報から二見を探し出そうとする。ふたりは純粋に二見に会いたいのと、円堂は二見と共に行方不明となった君香の行方と、当時なぜ円堂を捨てて二見と駆け落ちしたのかを聞くために動き出す。

二見の行方を捜すのは二見に多大な資金を溶かされたヤクザだ。この時点で、ヤクザが絡んでくるのでハードボイルド風味が増すのかと思いきや…。一切血なまぐさい戦いはない。そもそも円堂が血なまぐさい争いに巻き込まれた際にどのように動くのかは不明だ。度胸はあるが、格闘能力があるようには感じられない。

バブルの思い出が詰まった作品だ。作者の年代に近いのだろう。60代の円堂が動きだし、周りのヤクザたちはただ親分から命令されたから動いているだけ。30年もの昔の情報から動き出すのはかなり難しい。肝心の二見はもはや90代となっている。

となると、老人たちの争いのように見えてしまう。バブルを経験していない者にとっては、なんだかよくわからない老人たちの思い出探訪のように思えてしまう。主人公の円堂が根拠なく様々な女性たちからモテモテなのも、一昔前のハードボイルドのように思えてしまった。

バブル臭がすさまじい作品だ。



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