青瓜不動 三島屋変調百物語九之続 


 2024.12.21      なんとも言えない気持ちになる「針雨の里」 【青瓜不動 三島屋変調百物語九之続】


                     
青瓜不動 三島屋変調百物語九之続 [ 宮部みゆき ]
評価:3
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■ヒトコト感想
三島屋変調百物語シリーズの第九弾。シリーズを通じて不思議な話の聞き手が変わっている。富次郎が様々な不思議な話を聞く。以前の聞き手であるおちかの出産を交えた物語であり、表題作でもある「青瓜不動」は印象的だ。このシリーズは割と救いようのない終わり方をする物語が多かったのだが、青瓜不動はおちかが無事に出産し、それまでの様々な不穏な出来事がすべて無に帰るようでよかった。

巨大なムカデやうりぼうなどは思わず頭の中で想像してしまった。行くあてのない女たちのために用意されたもの。女の立場が弱い時代の物語だということがまざまざと思い知らされた。おちかの生まれた子供が「小梅」というのもよい。今後は小梅も登場してくるのだろう。

■ストーリー
行く当てのない女達のため土から生まれた不動明王。悲劇に見舞われた少女の執念が生んだ家族を守る人形。描きたいものを自在に描ける不思議な筆。そして、人ならざる者たちの里で育った者が語る物語。恐ろしくも暖かい百物語に心を動かされ、富次郎は決意を固める──。

■感想
「針雨の里」は印象深い。捨て子や拾われた子供たちばかりを集めた奥深い村。山奥で普通の村人たちとの交流はなく、20歳を超えた子供たちは下界の村に戻される。村に昔からいる者は決まっており、幸せな生活を続けてきたのだが…。

この村の近辺では針の雨が降って人を貫くという。恐ろしい雨なのだが、そのからくりはラストではっきりとする。雨が針のようにとがっているのではなく、雨を受ける人間側に問題があった。まさに、捨てられた子供たちを助けるための受け皿として存在した幻の村だ。

何かいわくがあるわけではない。悪意があるわけではない。針雨の里の仕掛けがわかると悲しくなる。子供たちは村に連れてこられてからは、同じような年齢の子供とコンビを組まされて、木の上で貴重な鳥の卵や羽を手に入れる。

村の大人たちが普通とは違う理由はラストで納得できる。村に残ることを希望する子供もいるのだが、長年村のために仕事をしてきた老人が最後の仕事を終えるときに話した言葉は印象的だ。もしかしたら、下界の村の人々は針雨の里のことに気づいていたのかもしれない。

「自在の筆」はわかりやすい呪われた筆だ。富次郎が幼いころからの夢をあきらめきれない。絵をかくことへの執着が、この話を聞いて変わっていく。すばらしい絵を描ける筆が目の前にあったら、富次郎であれば手に取って絵をかいてしまうのだろう。

この呪われた筆を始末するために、とった行動がすさまじい。筆が存在している間は素晴らしい絵だと錯覚するのだが、筆を手放した瞬間に絵が実はとんでもない駄作であることに気づく。とんでもない呪われた筆だ。

シリーズの中では、まだ救いのある話だ。



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