アキラとあきら


 2023.12.7    企業経営者の辛さが存分に描かれている【アキラとあきら】

                     
『アキラとあきら』 [ 池井戸潤 ]
評価:3.5

■ヒトコト感想
池井戸潤原作の映画化。原作はすでに読んでいる。池井戸潤が得意の銀行系の物語だ。大企業の御曹司であるアキラと町工場出身のあきら。ふたりが同じ銀行に同期として入行し、ふたりはひょんなことから協力することになる。大企業は大企業で経営の悩みや苦しみがある。町工場は当然として資金繰りの悩みがある。

それらを銀行からの立場でそれぞれの思い入れがあることから、異なったスタンスで銀行業務を行う。優秀なふたりが、いつの間にかラストでは企業経営者と担当の銀行員という立場で大企業を復興させるために力を注ぐ。アキラの親戚関係の権力争いが元で、グループ企業全体が危機に陥るというのはなんともバカみたいだ。悪役は救いようのない悪として描いているのが良い。

■ストーリー
父親の経営する町工場が倒産し、幼くして過酷な運命に翻弄されてきた山崎瑛<アキラ>。大企業の御曹司ながら次期社長の椅子を拒絶し、血縁のしがらみに抗い続ける階堂彬<あきら>。運命に導かれるかのごとく、日本有数のメガバンクに同期入社にした二人は、お互いの信念の違いから反目し合いながらも、ライバルとしてしのぎを削っていたが、それぞれの前に<現実>という壁が立ちはだかる。

<アキラ>は自分の信念を貫いた結果、左遷され、<あきら>も目を背け続けていた階堂家の親族同士の骨肉の争いに巻き込まれていく。そして持ち上がった階堂グループの倒産の危機を前に、<アキラ>と<あきら>の運命は再び交差する

■感想
どちらかというと映画化には向いていない原作だろう。映像的なインパクトというよりも、銀行内の細かな企業の業績の数字についてのやりとりがメインだ。資金繰りに苦しむ企業は銀行からの融資を受けるために決算書を粉飾する。

それを見抜くのは銀行員の仕事なのだが…。アキラは大企業グループの御曹司としてエリート銀行員となる。ただ、自分の家の仕事を捨てて銀行員になったという負い目がある。あきらは父親の町工場が潰れるのを目の当たりにしている。銀行に対して恨みがあるのはあきらの方なのだが…。

あきらはとんでもなく良い奴だ。困っている零細中小企業を助けようと必死になる。合理的で確実性だけを求める上司から目をつけられたりもする。あきらの仕事に観衆は好感をもつだろう。対してアキラは対比の意味で合理的な銀行員という位置づけなのだが…。

どちらも出世コースに乗るはずが…。メインはアキラの家の問題だ。親戚が手をだしたリゾートホテルが失敗しグループ全体の問題となる。このあたりは池井戸潤作品らしい展開が続いていく。他作品とのコラボのような流れがあるのも良い。

アキラの家を救う方法はアクロバティックな描かれ方をしているのだが…。根本問題は解決していない。リゾートホテルは結局は赤字を垂れ流し続ける。アキラが親戚たちを説得し前に進む。その勢いが本作のすべてなのだろう。経営者たちのどうにも手も足も出ないとなった時の絶望感はすさまじい。

担当銀行員は同じように企業を救おうとするが…。あきらのような熱量で仕事をする銀行員は世の中にはいないだろう。所詮、銀行員は自分の生活が脅かされるわけではない。経営者とは立場が異なる。

池井戸潤作品が好きな人以外は辛いかもしれない。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp