アキラとあきら 


 2018.2.5      優秀な銀行員は経営の視点をもつ 【アキラとあきら】

                     
アキラとあきら (徳間文庫) [ 池井戸潤 ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
池井戸潤が得意な銀行系の物語だ。ふたりのアキラが主人公の本作。幼少時代に家業の倒産を経験した瑛と大手企業の御曹司である彬。ふたりの境遇の違いから、成長し大人になったふたりの状況の変化が語られている。定番として雑草魂の瑛とおぼっちゃんの彬で、ふたりの対決では最終的に瑛が勝つようなストーリーかと思いきや…。

どちらも困難に立ち向かいながら成果を上げている。ライバル関係というよりも、それぞれが困難にぶち当たり、立場は違うが協力して対応するという感じだ。「下町ロケット」的なすっきりする逆転劇はない。企業経営の困難さや銀行員の業務が多岐にわたるなど、銀行を舞台にした青春物語といえるのかもしれない。

■ストーリー
零細工場の息子・山崎瑛と大手海運会社東海郵船の御曹司・階堂彬。生まれも育ちも違うふたりは、互いに宿命を背負い、自らの運命に抗って生きてきた。やがてふたりが出会い、それぞれの人生が交差したとき、かつてない過酷な試練が降りかかる。逆境に立ち向かうふたりのアキラの、人生を賭した戦いが始まった―。感動の青春巨篇。

■感想
瑛は幼いころに取引先の倒産の影響を受け、家業の工場が倒産し夜逃げを経験している。その惨めさから復活するのが瑛の物語だ。瑛の状況は、家が貧乏でありながら努力し成り上がっていく。瑛の状況というのは同情せざるお得ない。

そこから銀行員としての能力を示すのがすばらしい。彬の状況を描き、彬が十分優秀だと描写としておきながら、さらにその上をいく存在として瑛が登場してくる。彬だけでも十分すばらしいのだが、さらにその上をいく存在としての瑛。強烈なインパクトのある状況だ。

彬は御曹司ならではの苦労が描かれている。大企業もひとりのカリスマ経営者の死により揺らぎ始める。叔父たちの乱脈経営。彬の弟が新社長となるも、叔父たちの企業の連帯保証をしたために、自社もピンチにおちいることになる。

基本は、この彬の家業の危機をどのように救うかがメインだ。八方ふさがりの状況からどのようにして脱却するのか。配下企業の切り売りや、企業自体の売却なども視野にいれながら、彬は有能な銀行員から企業の経営者へと変化していく。

本作を読んでまざまざと感じたのは、有能な銀行員とは並みの経営者以上に経営のことをわかっていなければならないということだ。企業の先行きや業績を判断する。それは小さな紙切れ一枚の中に描かれた業績の嘘を見破る目も必要だ。

経営者としての視点とバンカーとしての能力。瑛と彬はどちらの能力も高い。ただ、最後には瑛がドラスティックな解決策を考え、それにより彬の企業が救われるという流れだ。貧乏な瑛とおぼっちゃまの彬の対比がそれほどないため、当初想定していた流れにはならない。

どちらかというと、ふたりのアキラの協力物語だ。



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