2021.3.6 自分の人格を他者に移植 【私の消滅】
私の消滅 (文春文庫) [ 中村文則 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
冒頭から別の人物になりかわる的な物語がすすんでいく。部屋に残された手記を読みその人物になりかわる。奇妙な入りなのだが、その理由は後半に判明する。人をマインドコントロールする。精神科医が恨みのある人物に対して、自分の記憶や経験を植え付けようとする。異常な物語であることは間違いない。宮崎勤の異常な心理状態が分析されており、まるで何か異常な犯罪が行われているような雰囲気すらある。
タイトルの「私の消滅」というのは、精神科医の記憶の操作の治療の中で、極限まで強い電流を脳に流すことで記憶をなくし別の人物になりかわれるということなのだろう。人の記憶や経験をこれほどまでにコントロールできるのかと恐ろしくなる物語だ。
■ストーリー
「先生に、私の全てを知ってもらいたいのです。私の内面に入れますか」心療内科を訪れた美しい女性、ゆかり。男は彼女の記憶に奇妙に欠けた部分があることに気付き、その原因を追い始める―。傷つき、損なわれたものを元に戻したいと思うことは冒涜なのか。Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞した傑作長編小説。
■感想
心療内科医の医師が患者の女性に惹かれていき、その女性の復讐を行う物語だ。冒頭から男が小塚になりきるために小塚の手記を読むところから始まる。幼少期から精神が不安定で妹を崖から落とし、無意識化で妹を殺そうとしたり、母親の元に通ってくる男から暴力を受けたりする。
序盤では男が小塚になりかわるために手記を読んでいるのだが、途中で精神科医の元に連れられてくる。非常に混乱する流れではあるのだが、小塚というのはこの精神科医のことで、男は小塚が復讐したい相手だということがわかる。
自分の患者であり愛した女性の復讐のために男に小塚自身の人格を入れようとする。マインドコントロールと催眠により人に対して人格を入れ込む。こんなことが可能なのかはおいといて非常に恐ろしくなる。全ての元凶である吉見という精神科医に小塚自身も人生を台無しにされた経験がある。
人をコントロールすることがどれだけ簡単かというのを、歴史の事実によって語られている。その中で、精神に異常をきたした人物として宮崎勤の精神分析がされているのが興味深い。
復讐する相手に自分の人格を入れ込む。そして、自分と同じ苦しみを味合わせる。あまりに異常な復讐劇なので、ついていくことができない。復讐を遂げたあとの小塚は、さらには自分の人生をめちゃくちゃにした相手でもある精神科医の吉見に対しても復讐をとげる。
最終的には小塚自身も新たな人生を歩むために自分の記憶を消そうとする。頭の中に強い電流を流すことで一部の記憶を消す。その電流が強ければ強いほど記憶は消えていく。
自分の人格を他者に移植するという恐ろしい物語だ。
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