とめどなく囁く 


 2019.12.4      死んだはずの夫が実は生きていた? 【とめどなく囁く】

                     
とめどなく囁く [ 桐野夏生 ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
前夫を海難事故で亡くした早樹。資産家の男と再婚した早樹の物語が描かれている。早樹の再婚相手には早樹と同い年の娘がいる。それら娘や息子の嫁たちとのいさかいが描かれるかと思いきや、そのあたりはただのオマケでしかない。メインは死んだと思われていた前夫が、実は生きているかも?という流れだ。義理の母親が前夫と思わしき人物を見たと早樹に告げる。

このあたりから、心霊的な流れを想像してしまう。次第に周りで同じような目撃証言が登場してくる。今の夫との関係や娘との関係、そして義理の母親との関係まで。非常に入り組んでいる。それでも、物語のポイントは前夫が生きているかどうかで、生きているならなぜ8年も姿を現さなかったかが読者の気になる部分だろう。

■ストーリー
一番近くにいるのに誰よりも遠い。海釣りに出たまま、二度と帰らなかった夫。8年後、その姿が目撃される。そして、無言電話。夫は生きていたのか。塩崎早樹は、相模湾を望む超高級分譲地「母衣山庭園住宅」の瀟洒な邸宅で、歳の離れた資産家の夫と暮らす。

前妻を突然の病気で、前夫を海難事故で、互いに配偶者を亡くした者同士の再婚生活には、悔恨と愛情が入り混じる。そんなある日、早樹の携帯が鳴った。もう縁遠くなったはずの、前夫の母親からだった。ささやきの音源はどこにある

■感想
資産家の夫と再婚し幸せな生活を送っていた早樹の元に衝撃的な出来事が伝えられる。前夫の母親から前夫らしき男を見たと聞いてから、早樹の人生はおかしくなる。今の夫は70を超えており、実の娘と早樹が同い年という特殊な状況にある早樹。

それでも落ち着いた夫の言動や、仕事を引退しのんびりと生活する日々に落ち着きを取り戻していたのだが…。海難事故で行方不明となり8年。疾走宣言から葬式をあげたりもしたのだが、死体が上がっていないだけにまだ前夫が生きている可能性はゼロではない。

早樹からすると今更という思いが強いのだろう。もしなんらかの策略により早樹の元から逃げるために海難事故を装っていたとしたら…。早樹の怒りはすさまじいものだろう。今の夫の家族とのトラブルもあり、実の娘がブログで早樹のことを批判したりもする。

ひとつの歯車が狂いだすと、すべてがギクシャクしてくる。そんな中で前夫の知り合いを通じて、前夫が実は生きているのではないかという雰囲気を感じとる。早樹の苦悩はすさまじい。今夫の遺産目当ての結婚だと周りから言われることが、より苦悩に拍車をかけるのだろう。

早樹と同い年の夫の娘が不倫の末、自殺未遂をする。その結果…。早樹と同居することになる。ここで因縁の対決が実現するかと思いきや…。思いのほか娘は早樹の状況を知り、同情したりもする。強烈なインパクトがあるのは間違いなく前夫の状況だ。

早樹は前夫は死んだと思い込んでいたが、実は生きていた。それを知るのはラストだ。最後には前夫の懺悔の手紙で終わる。なぜ前夫は早樹の前から姿を消そうとしたのか。それまでの伏線が全て回収されている。

途中で読むのを止めることができない作品だ。



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