小説・震災後 


 2020.9.7      今後も原発に依存し経済を成長させるのか 【小説・震災後】

                     
小説・震災後[ 福井晴敏 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
作者は東日本大震災関係の作品をいくつか描いている。本作は、平凡なサラリーマン一家の野田が東京に住んではいるが、原発事故と放射能汚染に翻弄される物語だ。家族の中で祖父は政府の情報機関に勤めていた関係で、すでに引退してはいるが様々な情報が舞い込んでくる。野田はリストラにおびえる平凡なサラリーマンだが、息子は進路に悩む微妙な年ごろの中学生だ。

テレビ画面の中での惨劇から、原発事故につながり自分たちの住む東京にも影響があるかもしれないとわかる。日本は原発政策をこのまま続けていくのか。現実的に、経済成長を続けながら原発を排除できるのか。息子がデマを拡散した事件を起こす。家族の様々な状況を通して野田は自分の考えを確立させていく。

■ストーリー
二〇一一年三月十一日、東日本大震災発生。多くの日本人がそうであるように、東京に住む平凡なサラリーマン・野田圭介の人生もまた一変した。原発事故、錯綜するデマ、希望を失い心の闇に囚われてゆく子供たち。そして、世間を震撼させる「ある事件」が、震災後の日本に総括を迫るかのごとく野田一家に降りかかる。傷ついた魂たちに再生の道はあるか。祖父・父・息子の三世代が紡ぐ「未来」についての物語―。

■感想
東日本大震災が発生し、日本中が混乱した時、平凡なサラリーマン家庭の野田一家はどうなっていったのか。まず祖父が普通ではないので、様々な情報が入る。世間のデマに惑わされない、正しい情報により正しく行動することで世間の混乱から逃れることはできる。

災害時のデマは強烈だ。正しい情報を得ることが重要であり、たまたま野田の父親にツテがあったことで情報を手に入れることができている。原発事故で、ありもしない風評被害がかなり問題になっていたことを思い出した。

野田は息子と共に被災地へボランティアに向かう。家族総出で浸水被害を受けた家から泥をかきだしたりと、ボランティアの苦労と被災者がどれだけ大変かが描かれている。ただ、その過程で野田の息子が被災地に残ってボランティアを続けたいと言う。

ここで祖父は小さな力よりも、将来成長し力をもち、被災地を救うような活動をするように諭す。直接的な支援も大切だが、自分の力を高め、将来的に偉くなることで、もっと大きな意味での支援ができるということだろう。

強烈なのは政府の原発に対する方針に反発し、野田の息子がデマ映像を世間に拡散し、そのことで逮捕されるとなった部分だ。中学生の息子が犯罪を犯し逮捕される。祖父の権限で情報を事前に手に入れることはできたのだが、逮捕を防ぐまではできない。

自首すると言う息子。息子の人生を守るために必死で動こうとする野田。未成年ということで素性が明るみにでることはないのだが…。原発の今後の在り方をどのように考えるのか。経済成長を続けながら、原発を全て撤廃するのは不可能なのだろう。

原発の在り方を考えさせられる作品だ。



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