平成関東大震災  


 2012.5.31   いざという時の心がまえ 【平成関東大震災】

                      評価:3
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■ヒトコト感想

本作は東日本大震災よりも前、2007年に出版されている。だからといって、予言だとか思うわけではない。関東近辺では常に「大地震が起きる」というのは言われてきたことだ。作者は想像力を働かせ、災害時の助けとなるような情報を本作に組み込んでいる。物語は東京に直下型地震が起きたという想定で描かれている。東日本大震災を目の当たりにすると、本作の内容が大げさではないとわかる。もし、本作を震災前に読んでいたとしたら、どこか他人事で真実味がないと感じていたことだろう。震災後の今だからこそ、近々起きるであろう首都直下型地震に備えるためにも、本作を読んでおくべきだろう。作中に描かれた死者の数というのは、衝撃的だ。

■ストーリー

突如として起こった大地震。新宿で震災に直面した平凡なサラリーマン・西谷久太郎は、家族に会いたいが一心で大混乱に陥った首都を横断する。生きていれば必ず道は見つかる。次から次へと襲いかかる災厄を乗り越え、ついに自宅にたどり着いた西谷が手にしたものは―。実用情報も満載したシミュレーション小説。

■感想
本作の内容をしっかりと頭に入れた状態で、東日本大震災を経験したら、また違った行動をとっただろう。首都圏の交通が麻痺し、何も考えず徒歩で帰宅したが、それがどれほど危険なことなのか。本作は東日本大震災とはまた違った、首都直下型地震を想定しているので、東京の被害も甚大だ。何気なく作中に描かれている想定被害者数というのは、衝撃的でしかない。あの阪神大震災の11倍というのは強烈だ。5万人の死者数となると、もしかしたら身近に犠牲者が存在するかもしれない。そんなことを考えると、恐ろしくなる。

西谷久太郎という男が、震災を経験し、どのようにして家族と再会し、その後生きていくのか。小説的なドラマチックな出来事というよりも、想定される苦労をそのままリアルに描いているということだろう。家はつぶれ、苦しい避難生活を続け、その後、仮設住宅で暮らす。勤めていた会社はどうなるかわからず、経済的損失は何十兆円にもなる。とてつもない数字の羅列が、普通ならば「現実感のない世界の話だ」ですむのだろうが、つい一年前に震災での混乱を経験していると、創作ではすまされない深刻さを感じてしまう。

本作では物語のほかに、実用情報も含まれている。災害時にはどのような行動をとるべきか。非難場所は?車に乗っていた場合は?電車は?恐らく平和な日常では何も感じないだろうが、本作の情報を知っているのと知らないのでは、大きく違うだろう。もし、関東大震災が起こったとしても、本作の知識により、なんらかの適切な行動ができるような気がする。行動できないまでも、自分の命や家族の命を守る手助けになることは間違いない。

自分自身に対して、震災への心構えを見直すには最適な作品だ。




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