2020.12.9 緊縛師がからむ奇妙な事件 【その先の道に消える】
その先の道に消える 朝日新聞出版 中村文則/著
評価:3
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■ヒトコト感想
一人称の視点が変わる。そのため事件の状況が複雑化していく。緊縛師をテーマとした殺人事件。序盤では好きな女が容疑者としてリストアップされることを避けるため、刑事が指紋を偽装することから始まる。ただ、そのたくらみは同僚の刑事にバレてしまう。
序盤は偽装する刑事・富樫の視点で物語が始まり、後半ではすべてを解決すべく同僚刑事・葉山の視点ですすんでいく。富樫が何者かに殺されてから、よりミステリアスな雰囲気が強くなる。緊縛師をテーマとしているので、SMチックな雰囲気が強く、縛られることに快感を覚える女が登場する。人の入れ替わりや整形してまで他人に成りすますなど、複雑な要素があり結末までどのような流れかが判明しない複雑さがある。
■ストーリー
僕は今、正常だろうか?僕が求めているものは、何だろう?アパートの一室で発見されたある“緊縛師”の死体。重要な参考人として名前があがる桐田麻衣子は、刑事・富樫が惹かれていた女性だった。疑惑を逸らすため、麻衣子の指紋を偽装する富樫。全てを見破ろうとする同僚の葉山。だが事態は、思わぬ方向へと突き落とされていく。犯人は誰か。事件の背後にあるものとは、一体何なのか。やがて、ある“存在告白”が綴られた驚愕の手記が見つかり―。
■感想
序盤は富樫の視点で始まる。緊縛師の死体を見て、知り合いの麻衣子に容疑がかかることを察知する富樫。ここで富樫は危険なことだと理解しながら指紋を偽装する。ここでの緊迫感あふれる心理描写がすさまじい。
周りを刑事に囲まれた状態で不自然な動きをしないように指紋を偽装する。そして麻衣子に近づいていく。富樫は事件の調査をするのだが、そこで麻衣子に容疑がかからないよう、様々な仕掛けを入れる。この段階では麻衣子が犯人という流れはないのだろうと読者は想像してしまう。
強烈なのは葉山が富樫の動きをすべて見切っていた部分だ。中盤になると富樫は追い詰められていく。葉山の得体のしれない恐ろしさが富樫視点から伝わってくる。葉山はどこまで知っているのか。偽装を続けるためには、より深く麻衣子の周りにも関わっていく必要がある。
偽装するためにデリヘルの店長からの証言を得ようとするのだが…。ここで緊縛師関連の異常性が垣間見えてくる。富樫が何者かに殺害されたことで、富樫視点の物語は終わる。ここからは葉山メインの物語となる。
葉山はまるですべてを理解しているように、様々な関係者へ聴取していく。葉山が動くたびに事件の異常さが次々と明らかになる。異様に緊縛にこだわる女。死よりも緊縛を求める者。緊縛師の才能があるものなど普通ではない状況が次々と明らかとなる。
葉山が淡々と事件を解決に導いていくのだが、最後の最後で犯人と対峙することになる。ここで、富樫を殺害した者が犯人だと判明する。ミステリー的な面白さもあるのだが、緊縛師が絡むとなんだか奇妙な雰囲気が強くなる。
葉山のキャラクターは強烈だ。
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