さよならの儀式 


 2020.9.2      異質なSF短編集 【さよならの儀式】

                     
さよならの儀式 / 宮部みゆき
評価:3
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■ヒトコト感想
宮部みゆきの短編集。作者にしては珍しくSFがメインとなっている。長編の題材にも使えそうなモノもある。近未来には、本作に登場するようなことが起こっているのかもしれない。「母の法律」に登場してくる「マザー法」なんてのは、そのうち日本でも法整備されてもおかしくないだろう。

孤独な老人が気づくおかしな日常。監視カメラがアチコチに設置されている現代に対する皮肉なのか。ありもしない監視カメラに気づいた者は、その数日後に死んでしまう。何か霊的なものなのか、それとも脳の異常がありもしない監視カメラを見せているのか。ラストでオチをはっきり名言しないというのも、物語の不思議な雰囲気を高めている。オチがないことを不満に思わない流れはすばらしい。

■ストーリー
親子の救済、老人の覚醒、無差別殺傷事件の真相、別の人生の模索…淡く美しい希望が灯る。宮部みゆきの新境地、心震える作品集。

■感想
印象邸な短編がある。「母の法律」は、「マザー法」という虐待を受ける子供とその親を救う法律ができる。マザー法を良く思う者もいれば、忌避する者もいる。過去の記憶を消され里親に出された娘が死刑囚の母親に会いに行くというちょっとショッキングな内容となっている。

最初は何の予備知識もなく読み進めていたため、冒頭の「母の法律」から次の「戦闘員」にも繋がっている長編かと思ってしまった。ラストの終わり方も、まだ続きがあるのでは?と思わせる流れとなっているのが印象的だ。

「戦闘員」は、監視社会を風刺するような物語となっている。街のあちこちに設置されている監視カメラ。老人は毎日の散歩ついでに、監視カメラの設置場所とその数を覚えているのだが…。現代でも監視カメラは当たり前に存在する社会となっている。

もし、自分が住むマンションの玄関に、何の連絡もなく勝手に監視カメラがつけられているとしたら、人はどうするのか。あるはずのない監視カメラをまるで幻覚のように見てしまう。誰かのいたずらなのか、あるはずのない監視カメラを目撃した者は例外なく死んでいく。心霊現象的な恐ろしさを感じた。

「海神の裔」は結局のところフランケンシュタインが村のために活動する物語だ。非軍事用屍体のトムさんは村のために活動する。体がボロボロになるのは死んでいるから。力があり港の仕事をやるにはうってつけだが、酷使すると体がボロボロになってしまう。

トムさんという名前が良い。頭の中では恐ろしいフランケンシュタインが村のために一生懸命働く姿が思い浮かぶ。他の短編に比べ、より短い作品ではあるが、ほのぼのとした雰囲気があるので印象に残っている。

宮部みゆきにしては異質な短編集だ。



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