殺人鬼がもう一人 


 2019.9.6      ラストの短編で最悪な刑事だと判明する 【殺人鬼がもう一人】

                     
殺人鬼がもう一人/若竹七海
評価:2.5
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■ヒトコト感想
若竹七海のブラックなミステリー短編集。身長が高い生活安全課の刑事である三琴と田中盛のコンビが、奇妙な事件を調査する。生活安全課なので、シリアスな殺人事件というわけではない。選挙でのライバルを蹴落とすための殺人であったり、結婚式が始まる直前でのドタバタであったり。表題作でもある「殺人鬼がもう一人」に限り、殺し屋が登場してくる流れとなっている。

嫌な感じのミステリーであり、日常にありえなくもない展開となっている。複雑な人間関係と、誰が誰を恨み、どのような動機で犯罪を犯したのか。刑事が生活安全課でなおかつ身長が高いとなると、そのキャラはそれなりに生きている。連作としての面白さも含まれているため、最後まで興味深く読み進めることができる。

■ストーリー
都心まで一時間半の寂れたベッドタウン・辛夷ヶ丘。20年ほど前に“ハッピーデー・キラー”と呼ばれた連続殺人事件があったきり、事件らしい事件もないのどかな町だ。それがどうしたことか二週間前に放火殺人が発生、空き巣被害の訴えも続いて、辛夷ヶ丘署はてんてこまい。そんななか町で一番の名家、箕作一族の最後の生き残り・箕作ハツエがひったくりにあうという町にとっての大事件が起き、生活安全課の捜査員・砂井三琴が捜査を命じられたのだが…。(「ゴブリンシャークの目」)アクの強い住人たちが暮らす町を舞台にした連作ミステリー。

■感想
「ゴブリンシャークの目」は、資産家の老女がひったくりにあったということで三琴と田中盛のコンビが調査をする。被害者であるハツエは、良い人な雰囲気をこれでもかとだしている。ひったくられたにも関わらず、犯人の行く末を心配したり。

ひったくり犯が実はあたり馬券をもっていたという、むちゃくちゃな状況だったり。結局のところ資産家のおばあさんはその外面に対してかなり腹黒いということがわかった。人は見かけによらない。おばあさんだから良い人というのは大きな偏見だ。

「丘の上の死神」は市長選の物語だ。リベラル派と現職派が一触即発状態。どちらも、相手を追い落とそうと必死になる。そんな時に、リベラル派の英遊里子の夫が急死する。夫の死を対立候補は事件として作り上げ遊里子の好感度を下げようとする。

この英遊里子は明らかに小池百合子をイメージしているのだろう。選挙では表面しか見えない。市民が知らない裏側では激しい狸の化かし合いが繰り広げられている。どちらの候補も最悪なのは間違いない。

「殺人鬼がもう一人」は、うすうす感じてはいたが、三琴の最悪さが決定的になった短編だ。殺し屋が暗躍する世界。地方の警察署ならば、現職の警察官がどのようなことをやっていても、誰も調べ上げることはできないのだろう。

今までの短編の要素が少しづつ関連しており、最後に本作が登場してくると、強烈なインパクトがある。この流れであれば、かなり強烈だ。シリーズ化は無理かもしれないが、ここまで主人公をボロクソに悪く描くことができるのはなかなかないだろう。

強烈なインパクトがある連作短編集であるのは間違いない。



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