神域 下 


 2021.5.19      国益や人の倫理観さえも超える何か 【神域 下】

                     
神域 下 [ 真山仁 ]
評価:4
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■ヒトコト感想
上巻から引き続き、ファニックス7をめぐる政治的、そしてビジネス的な駆け引きが描かれている。研究施設での徘徊老人を実験台としてファニックス7を移植していたことに地元刑事が気づき始める。フェニックス7がアメリカに奪われるのかのゴタゴタの中で、内部では治験という名の人体実験がうまくいかずに問題が発生する。

追い込まれた研究者のシノケンたちがどのような行動にでるのか。ファニックス7をめぐる争いの中には、自分がアルツハイマーに罹患したために必要とする者もいる。権力を使い警察組織をコントロールしフェニックス7を守る。研究所を家宅捜索されるラストの展開は緊迫感にあふれており、どのような結末となるかが気になり、ページをめくる手を止めることができなかった。

■ストーリー
国家間の競争に巻き込まれてゆく「フェニックス7」、研究施設周辺では謎の失踪事件が頻発していた。真相を追う刑事はその全貌に戦慄する。果たして、生命の神秘という神の領域に、我々は拙速に突き進んでよいものだろうか。

■感想
徘徊老人たちを保護し実験のためにフェニックス7を移植していた。人体実験だが、ボケが始まり人間として正常な判断ができなくなるよりは、実験台となっても治療を希望する者は多いだろう。倫理的な問題はあるにせよ世間の患者たちが求めるものは治療だ。

フェニックス7の実質的なオーナーである氷川がアルツハイマーになりかけていることから、フェニックス7の開発が急がされる。そんな状況で、俳諧老人たちに治験を繰り返してきたことを地元警察が気づき始める。このあたりの緊迫感はすさまじいものがある。

フェニックス7がアメリカに奪われる危険性がでてくる。氷川の暴走もありつつ、フェニックス7の治験を進めるための暴挙だとわかる。それを阻止するために政治家や権力者たちがうごめき始める。それぞれが自分の思惑で動き始める。

肝心の研究者たちは、治験をすすめるために動き始める。フェニックス7が実用化された場合、日本に莫大な利益が転がり込んでくる。それをみすみすアメリカに引き渡すのか。国益を考える者。自分のアルツハイマーの治療を考える者。目的が異なるので、おのずと行動も変わってくる。

研究所が家宅捜索される場面は強烈だ。地道な捜査で証拠を積み上げ、最後は強引なやり方だが徘徊老人たちが監禁されていた証拠を突き止めるのだが…。家宅捜索までこぎつけても強力な権力の力により捜査はうやむやにされてしまう。

フェニックス7をめぐる国益の問題が、皮肉にも殺人事件に近い犯罪すら消し去っている。最終的にフェニックス7が完成したかは描かれていない。政治的駆け引きや権力の綱引きにより下っ端は悔しい思いをするのも定番だ。

ラストがどうなるのか、最後までわからない緊迫した展開だ。



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