神域 上 


 2021.4.30      人の倫理観を試す薬 【神域 上】

                     
神域 上[ 真山仁 ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
アルツハイマーすらも治療してしまう万能幹細胞「フェニックス7」の研究と、それを製品化しようとする動き、そして治験がすすまない現状などが描かれている。強烈なのは、サルにしか実験していない状態で人間に対する治験をどうするのかという流れだ。倫理的な問題はさておき、本人が強く希望し死のリスクも受け入れるならば、フェニックス7を投与してもよいのでは?と思えた。

自分がアルツハイマーになるのを待つよりは、脳細胞が蘇ることに賭ける。世間の大富豪たちは同じような考え方を現実にもっているのかもしれない。そして、現実世界でも同じように大富豪によりなんらか承認前の治療が行われているのかもしれない。そんな現実を連想させる強烈な作品だ。

■ストーリー
脳細胞を蘇らせる人工万能幹細胞「フェニックス7」それは人間の尊厳を守るために生み出されたはずだった。国家戦略の柱としたい日本政府は一刻も早い実用化を迫る。再生細胞による医療が普及すれば、人は永遠の命を手に入れるかも知れない―。しかし、本当に細胞は安全なのだろうか。

■感想
世界の富豪たちは、自分が重大な病気やアルツハイマーになるとわかるとどうするのか。そのあり余る金を使って治療しようとする。自分の病気を治すことができる可能性のある研究が行われていると知ったら、その研究に資金を投入し一刻も早く治療できるよう金を惜しまないのだろう。

本作はそんなパターンが描かれている。上巻である本作では、フェニックス7を取り巻く状況と、フェニックス7にはまだ大きな問題があるという描かれ方をしている。そんな段階でも研究所のオーナーは早期の完成をせっついてくる。

アルツハイマーの治療がメインのフェニックス7のため、痴ほう症の老人が登場してくる。そして、研究所の近辺で行方不明となっていた痴ほう症の老人の死体が発見される。ある程度想定できる流れではあるが、痴ほう症の老人が研究所で実験のために使われていた。

ただ、これが無理やりであれば問題はあるのだが、本人の希望であればどうだろうか。数学の天才が、ボケ始めた自分の脳に絶望し、治療を望む。一時でも明晰な頭脳を手に入れることができれば、それでよいと考える。難しい問題だ。

奇妙な徘徊老人の死について、所轄の刑事が気づき始める。下巻では刑事が研究所の治療に気づき事件は解決されるのだろうが…。上巻の時点ですでに、研究所が悪なのかわからなくなっている。世界中のアルツハイマーの患者を救うことのできる薬がある。

その研究をすすめるためには人間による実験が必要だった。自分がアルツハイマーとなるなら、危険な薬であっても治療を受けたいと思うのはそのとおりだろう。現実世界の大富豪の中でも、自分の病気を治すために再生医療に莫大な寄付をしている人もいるかもしれない。

下巻の流れが気になって仕方がない。



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