錆びた滑車 


 2019.2.1      複雑な家庭の事情が引き起こす事件 【錆びた滑車】
                     
錆びた滑車 (文春文庫) [ 若竹 七海 ]
評価:2.5
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■ヒトコト感想
葉村晶シリーズ。今回は葉村が老女同士のいさかいに巻き込まれることから始まる。そこで青沼ミツエという老女と知り合いとなり、その先には家族の不幸な状況を知ることになる。複雑な家庭環境により様々な問題が発生する。ミツエの孫であるヒロトは、交通事故にあい重傷を負ったのだが…。ヒロトが葉村に奇妙な依頼をし、そこから事件の全容が次第に明らかとなってくる。

ヒロトと父親が事故にあった場所になぜヒロトがいたのかを葉村に調べてほしいという依頼だった。その後、ミツエとヒロトは住んでいるアパートの火事により死ぬことになる。関係者が死亡した後に、葉村は依頼者の無念を晴らすために調査を続行し、結論をだそうとする。

■ストーリー
葉村晶は、吉祥寺のミステリ専門書店のアルバイト店員をしながら、本屋の二階を事務所にしている〈白熊探偵社〉の調査員として働いている。付き合いのある〈東都総合リサーチ〉の桜井からの下請け仕事で、石和梅子という老女を尾行したところ、梅子と木造の古いアパート〈ブルーレイク・フラット〉の住人・青沼ミツエの喧嘩に巻き込まれ、怪我を負ってしまう。

住み慣れた調布市のシェアハウスを建て替えのため引っ越さなくてはならなくなった葉村は、青沼ミツエの申し出で〈ブルーレイク・フラット〉に移り住むことになるが、そこでは思いもかけぬサバイバル生活が待っていた。

ミツエの孫・ヒロトと父の光貴は八ヶ月前に交通事故に会い、光貴は死に、生き残ったヒロトも重傷を負った。事故の前後の記憶をなくしたヒロトは、なぜ自分がその場所に父といたのか調べてほしいと晶に頼む。その数日後、〈ブルーレイク・フラット〉は火事になり、ミツエとヒロトは死んでしまう……。

■感想
最初の調査はなんでもない老女の素行調査だった。それが調査対象のトラブル相手である青沼ミツエと知り合いになり、そこから身の回りの世話をすることを条件として、同じアパートの空き部屋に住まわせてもらったりもする。

葉村晶シリーズは相変わらず他者に対する悪意が強い登場人物が多数でてくる。悪意ある行動の数々を読まされると、この世には本当に悪意ある人しかいないと思えてしまう。思わず自分の身近にいる人たちが、どれだけよい人間なのかと驚いてしまうほどだ。

青沼ミツエとその孫であるヒロトと関わるうちに、別のルートから麻薬の問題が発生してくる。麻薬というよりも痛みを緩和させるための非合法の薬なのだろう。どれだけ痛み止めを飲んだとして、おさまらない痛み。

夜眠れないほど苦しい痛みというのを経験したことがないので、薬物に走る気持ちがわからない。ただ、痛みが和らぐのであれば、薬に手をだしてしまう気持ちもわからなくもない。ヒロトの父親が経営していた店の評判と薬物との関係。そして、ヒロトが事故にあった理由など複雑にからみあっていく。

羽村がヒロトから調査を依頼され、その後、ヒロトが放火と思わしき火事により死亡したことで事態は複雑となる。故人の名誉のために調査を続ける葉村。複雑な家庭の事情があり、関係者が他者に成りすますなどした結果、驚きのオチが待っている。

葉村が関わる事件というのは、必ず複雑怪奇な状況となる。その先にあるのは、後味の悪い展開だ。何かやむにやまれぬ理由があるわけではない。強烈なインパクトはないのだが、人の悪意が心の奥底に刺さる、なんとも後味の悪い展開となっている。

葉村晶シリーズは必ずこのような展開となっている。



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