2022.3.1 宇多田ヒカルも母親と同じ道を歩む? 【流星ひとつ】
流星ひとつ (新潮文庫) [ 沢木耕太郎 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
藤圭子のノンフィクションインタビューである本作。藤圭子は宇多田ヒカルの母親としての認識はあった。歌手としての藤圭子は知らない。それでも本作を読みながら、どのような人物かというのはわかってきた。ひたすら作者と藤圭子の会話が続く本作。リアルな28歳の女性の姿が本作から感じることができる。自分としては世代的にどうしても宇多田ヒカルとの比較をしてしまう。
読む人の世代によっては、宇多田ヒカルすらもよくわからない人もいるかもしれない。それらの情報がなくとも、歌手として成功するまでが丁寧にインタビューとして語られているので、違和感なく楽しめるだろう。奇しくも宇多田ヒカルは母親と同じ道を歩みつつあるというのが衝撃的だ。
■ストーリー
何もなかった、あたしの頂上には何もなかった――。1979年、28歳で芸能界を去る決意をした歌姫・藤圭子に、沢木耕太郎がインタヴューを試みた。なぜ歌を捨てるのか。歌をやめて、どこへ向かおうというのか。近づいては離れ、離れては近づく二つの肉声。火の酒のように澄み、烈しく美しい魂は何を語ったのか。聞き手と語り手の「会話」だけで紡がれた、異形のノンフィクション。
■感想
作者と藤圭子が酒を飲みながら会話形式でのインタビューをする。フランクな語り口でお互いリラックスな雰囲気の中、語りあっているのが感じられる。藤圭子についてはほとんど知らなかった。かろうじで宇多田ヒカルの母親ということは認識していた。
父親が浪曲師で母親が目が不自由ということや、貧乏で苦労したというのがある。みすぼらしい服を着て居酒屋に行き、そこで弾き語りをする。正直藤圭子の歌を聞いたことがないのだが、宇多田ヒカルのようにブームを巻き起こしたということには驚いた。
歌手として自分の中ではやりきった藤圭子。のどの調子がおかしかったことから、のどのポリープを切除したことで声の調子が変わり、そこから引退を考え始める。このあたりは、売れっ子歌手の苦労というか、世の中の一般人では気づかない部分なのかもしれない。
のちに自殺することになる藤圭子。精神的に病んでいたという話なのだが、このあたりから、その片鱗は見えていたのかもしれない。若くして結婚し、そして離婚する。その藤圭子の歩んだ人生を、宇多田ヒカルが同じような人生を送るようになっていることに衝撃を受けた。
作者のやさしい語り口と、質問に素直に答える藤圭子。インタビューをただひたすら話し言葉として描いているので、インタビューというよりはただの雑談のように思えてしまう。父親に虐待に近い扱いを受けていたり、有名になってからも父親から金づるのような扱いを受けていたり。
客観的に見ると、藤圭子は決して幸せな人生を過ごしたとは言えないのかもしれない。マスコミにあることないこと書かれたことへの不満なども述べているのだが、どうしても人間的な不安定さばかりが強く印象に残っている。
藤圭子が自殺した後に書かれた作者あとがきがなんとももの悲しい。
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