流人道中記 上 


 2021.10.12      罪人と押送人の奇妙な旅 【流人道中記 上】

                     
流人道中記(上) [ 浅田次郎 ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
罪を犯した青山玄蕃を蝦夷の地へ送る物語。押送人である石川はまだ見習い与力のため、罪人である玄蕃のどこか飄々とした態度に翻弄されるのがポイントなのだろう。痛いからと切腹を拒否した男・玄蕃。その地位は石川が想像するよりもはるかに高い侍だった。

蝦夷への道中で様々な人々と出会う。それぞれが事情を抱えながら、玄蕃が自由奔放な動きをし、それを石川がいさめる。これから蝦夷の地へ島流しとなる玄蕃だが、そこにシリアスな雰囲気はない。道中で出会う人々はみな玄蕃が主君でその部下が石川と勘違いしてしまう。道中の宿泊地で飯盛女や賞金稼ぎの侍、そして賞金首。それらが一堂に会してどうなるのか。このドタバタした流れが最高に面白い。

■ストーリー
万延元年(一八六〇年)。姦通の罪を犯したという旗本・青山玄蕃に、奉行所は青山家の安堵と引き替えに切腹を言い渡す。だがこの男の答えは一つ。「痛えからいやだ」玄蕃には蝦夷松前藩への流罪判決が下り、押送人に選ばれた十九歳の見習与力・石川乙次郎とともに、奥州街道を北へと歩む。口も態度も悪い玄蕃だが、道中で行き会う抜き差しならぬ事情を抱えた人々を、決して見捨てぬ心意気があった。

■感想
腹を切れば御家は存続するはずなのだが、玄蕃は切腹を拒否する。何か強い信念があるわけではなく、ただ痛いのが嫌だからという。玄蕃の押送人を押し付けられた形の石川もまた複雑な事情を抱えている。本来はその地位にあるべき存在ではない石川。

偶然養子に入ったことで与力の地位を与えられたのだった。そんな急造な与力の石川と、高い地位をもつ武士の玄蕃。それぞれの立場で旅をすすめようとするのだが、周りが勝手に玄蕃が主君だと勘違いしてしまう。このゴタゴタが面白さのポイントだろう。

旅先の旅籠で女を買う買わないの問題が勃発する。適当に面白おかしくすごしたい玄蕃と、罪人と押送人であることを自覚させたい石川。そこに、大金がかけられた賞金首が偶然一緒になり、さらには賞金稼ぎも同じ旅籠に泊まることになる。

さらには、飯盛女たちの細かな事情まで…。玄蕃と石川は周りから見ると、地位のあるお侍のような見た目をしているのだが、家来が石川ひとりしかいない。公務だということで全てを乗り切ろうとするのだが、腰に十手を引っ提げた状態であるので、かなり奇異の目で見られることになる。

玄蕃は飄々と石川をからかいつつ、自由気ままに旅を楽しんでいるように思えてしまう。石川だけがその任務の重大さをひとり気にしているようで、何かと神経質になる。仇討の相手を七年間も探し続ける男と出会いひょんなことから、仇討の相手を探すことになり…。

人が良いというのか、玄蕃はその貫禄から偉いお侍のように見られる反面、何かと安請け合いしてしまうタイプだ。罪人であるはずの玄蕃が、いつの間にか場のゴタゴタを丸く収めてしまう。

下巻では玄蕃の出自や罪の真実が明かされるのだろう。



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