ローズ・マダー 下 


 2018.6.30      不思議な絵の中に逃げ込む 【ローズ・マダー 下】

                     
ローズ・マダー(下) 新潮文庫/スティーヴン・キング
評価:3
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■ヒトコト感想
上巻では夫であるノーマンのDVから逃げ出したローズの状況が描かれていた。逃げ出した先でローズはかすかな幸せを得ようとしていたのだが…。ノーマンの魔の手が迫っているのは確実な状況であり、どのようにしてノーマンから逃れるかが下巻のポイントだろう。不思議な絵の中に入り込み、ノーマンの魔の手から逃れるローズ。

ビルという恋人を手に入れたとしても、ノーマンがいる限りは安息はない。ノーマンの異常性とローズの生き残るための執念が物語を不可思議なものにしている。不思議な絵は異世界の入り口であり、そこにノーマンを誘い込み始末しようと考えるローズ。不思議な絵がなければ、単純なDV物語として終わっているところだ。

■ストーリー
逃げた先の街でローズが見つけた不思議な絵は、異世界への入口となった。描かれているのは神殿の廃墟を見下ろす女性の姿。彼女のまとう衣服は、ローズ・マダー(赤紫色)。ローズは絵の力を借りて、妄執にとり憑かれたノーマンと対決しようとするが…。何がリアルで、何が非現実なのか?ホラーとサスペンスとファンタジーを巧みに融合させてあなたを未知の世界へと誘い込む。

■感想
ローズは逃げた先で幸せをつかみつつあった。恋人のビルとデートを楽しみ、充実した日々を過ごしている。ローズを追いかけるノーマンは、異常性を増している。行く先々でローズを見つけ出すことに心血を注ぎ、邪魔する者は容赦なく始末する。

ノーマンの吹っ切れた状況というのは恐ろしい。ノーマンはローズの手がかりを得るために、手あたり次第に攻撃を行う。さらに狡猾なのは、単純な変装ではなく、相手に普段のノーマンとはまったく別の印象を抱かせるような変装をすることだ。

狡猾であり暴力的であるノーマン。一瞬、記憶をなくしそのタイミングでは相手をかみ殺したりもする。まさに悪魔のような存在だ。ローズは常にノーマンの陰におびえながら生活するしかない。唯一ビルと一緒にいる時だけは、つかの間ノーマンのことを忘れることができる。

読者はローズの恋人であるビルが、いずれはノーマンに殺されるだろうことを想像してしまう。それまでにも、ローズと関わり合いがあったために、悲惨な目にあった者たちがいたからだ。

ローズが逃げ込んだ先は不思議な絵の世界だ。ノーマンをおびき寄せることでローズでもノーマンを始末することができる。不思議な絵の世界は、ノーマンを始末するだけでなく、ビルに抗うことのできない恐怖の印象を植え付けることになる。

ノーマンを排除した後、ローズはどうなっていくのか。ビルと幸せな日々を過ごすためには、不思議な絵の中の世界のことを忘れてもらうしかない。この絵の中の世界がなければ、物語としての面白さは半減するだろう。

単純なDV夫から逃げ出す物語ではない。



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