ライアー 


 2020.2.15      組織を守るためには身内にさえも手をかける 【ライアー】

                     
ライアー [ 大沢 在昌 ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
国外の対象者を秘密裡に処理する秘密機関の女工作員である神村。夫が身元不明の女と怪死した。本作が強烈なのは、神村の周りの特殊な人間関係だ。義理の父親が公安のOBであり何かしら裏でカギをにぎる。神村は非合法の活動をしてはいるが、子供にも夫にも恵まれていた。自分に人を殺す才能があると気づいた神村。そして、夫の事件を調べていくうちに新たな組織の姿が見え始める。

非合法組織の幹部たちの一声で事態は大きく変わる。いつどこで誰に襲われるかわからない状態。警察組織すらも抑え込むことができる権力者が関係する組織。夫が殺された理由は何なのか。自分たち以外にも対象者を処理する機関の存在に気づき、そこと対決する。権力構造が複雑なハードボイルドだ。

■ストーリー
穏やかな研究者の夫。素直に育った息子。幸せな家庭に恵まれた神村奈々の真の姿は対象人物の「国外処理」を行う秘密機関の工作員だ。ある日、夫が身元不明の女と怪死を遂げた。運命の歯車は軋みを立て廻り始める。次々と立ちはだかる謎。牙を剥く襲撃者たち。硝煙と血飛沫を浴び、美しき暗殺者はひとり煉獄を歩む。愛とは何か―真実は何処に?アクション・ハードボイルドの最高傑作。

■感想
秘密機関に勤務する女工作員・神村の物語だ。夫が怪死しその原因が夫にあるとは思えず調査をする神村。自分が秘密工作員のために夫が狙われたのかとも考える。義理の父親が公安の大物であり、秘密機関のことも知り尽くしている。

そんな状況にありながら神村は独自に動き事件を調査する。調査の過程で事件に食いつく刑事の駒井と知り合いになる。そして駒井は殺人者を見分ける勘をもっており、神村のことを怪しんだりもする。序盤ではまだ物語の全容がつかめないが、組織の権力構造の複雑さが伝わってくる。

自分たち以外にも同じような処理を行う秘密機関がもうひとつ存在したと知る神村。そして、夫がそこで殺されたと知る。義理の父親の権力がありながらなぜ夫は対象者となったのか。疑問がつきない神村は組織に狙われながらも命からがら生き延びていく。

大ボスの存在が明らかにならないまま、皆が上の者からの指示で動いていく世界。誰もが判断を上に任せ、人の生き死にさえ上の指示を仰ぐことになる。黒幕が判明しないまま神村は駒井と共に組織と立ち向かおうとする。

ラスト間近で様々な真実が明らかとなる。夫を殺すよう指示を出したのは、実は義理の父親だった。組織を守ることを第一に考え、余計な不安要素は排除する。そこにはたとえ身内だろうと切り捨てる覚悟がある。ある意味、国家のために命をかけるのは当然として、自らの幸せを放棄し国家に尽くす男たちの物語だ。

組織防衛の観点からは、明確な悪役がいないというのは良いのだろう。上は下の組織のことを知らないが、指示だけはだす。恐ろしいまでにハードボイルドの極致だ。

組織の構造が複雑なハードボイルド作品だ。



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