ペインレス 下 


 2019.5.11      人の感情に共感できないのが新人類? 【ペインレス 下】

                     
ペインレス(下) /天童荒太(著者)
評価:3
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■ヒトコト感想
上巻では、万浬の仕事や、体に痛みをまったく感じない男の話がメインで描かれていた。それが、下巻では一気に様変わりする。冒頭から万浬の出自のカギを握る父親と母親の出会いから、その特殊な状況が濃密に描かれている。

万浬という特殊な性質の人間がどのようにして育てられたのか、そのルーツは母親にあるということがわかる。そして、母親が精神を病んだために、実の祖母に育てられることになる。この万浬の状況と、万浬に対して仕事を依頼した曽根の痛みのルーツも語られている。あまりに特殊な状況のため、普通の人は理解できないだろう。人に共感できない心をもつ人間。作中ではもしかしたら新しい人類かもしれないと語られているが、とんでもない人類だ。

■ストーリー
世間で語られる愛っていったい何だろう――少女時代から万浬は、それを確かめるために何人もの実験台を誘い込んだ。元ミスキャンパスの教育実習生や、妹までも万浬の餌食となって破滅の一歩手前まで行ってしまう。愛を探求してやまないモンスターは、こうして成長し、今や患者の痛みをコントロールする側に立ったのだった。

末期ガンの痛みの治療を万浬に託した曽根老人だが、ガンの痛みを取り除いてほしいという意向かと思いきや、かつて味わった痛みを取り戻したいという驚くべき要求が万浬に下されたのだった。その痛みを伴う記憶、曽根の心に焼きついて離れない人物、亜黎。彼はまさしく、万浬のプロトタイプのような男だった……。森悟の母の秘密を握る曽根老人、森悟の家族を根底から揺さぶる結婚騒動。万浬の仕掛けた罠が次々と弾けてゆく。心の痛みのない女と、体の痛みを失った男。そこに愛は生れるのか。進化の扉は開かれるのか。倫理や常識を超え、今、DNAの壁が崩壊する!

■感想
愛という概念が理解できない万浬。そんな万浬が作り上げられた家庭環境はどのようなものだったのか。上巻での万浬の会話や行動を読んでいると、どんな教育を受けてきたのか?という疑問がわいてくる。それに答えるように、万浬のルーツが語られている。

実の母親は人の痛みに敏感になりすぎており、悲しい話を見聞きするだけで、体の中の疼きを抑えることができない。そんな女が結婚し、子供を妊娠してからは、自分の妊娠を信じることができず、精神崩壊する。

強烈なのは、万浬は少女時代に自分の母親が狂っていることに気づいていることだ。祖母に育てられ、愛を知らない女。万浬は表面上は社会生活を送るために問題のない上っ面の対応はできるのだが、心の奥底では何を考えているかわからない。

恐ろしいのは、自分に好意を持つ男二人を手玉にとり、一人の男の子供を作り、もう一人と結婚すると二人の前で言い放つことだ。そして、そこには二人の男の母親も同席している。相当な修羅場になることを覚悟し、あらゆる感情を捨てた行動する万浬はすさまじい。

万浬に過去の痛みを再現してもらいたいと願う男・曽根。曽根のルーツも語られている。完遂しようのない目標を課されるのはかなり困難だ。頭が良すぎるために、先の人生をすべて達観し新しい人間を生み出そうとする。普通の人には理解できない、金持ちの道楽のようにすら感じてしまう。

財力に肉体、すべてを持ち合わせた場合、次にどのような行動にでるのか。人は叶えられない目標があることが生きる意味に繋がるのだろう。人の痛みを理解できない人間が新人類とは思いたくない。

万浬というキャラは強烈だ。



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