ペガサスの解は虚栄か? 


 2018.3.22      クローン人間がクローン人間を産む 【ペガサスの解は虚栄か?】

                     
ペガサスの解は虚栄か? Did Pegasus Answer the Vanity? [ 森 博嗣 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
Wシリーズ。人工知能があたりまえの世界となり自然に人間が生まれにくくなった世界の物語だ。無性生殖によりクローン人間を生み出す技術が確立された場合、子どもが産めないと分かった人々はそれを選択するのか。なんだか人間の本質を問われているような作品だ。シリーズを通してそれらがジワジワと伝わってくる。

今回は、地位のある金持ちだけが、特殊な技術を使って子どもを産むことができる場合、それが違法であっても手をだすのか、ということだ。人工知能が正確な分析をする。人工知能は決して間違えないという先入観を逆手にとった流れもある。何十年後かの未来を予言しているようで怖い。本作の人工知能の考え方を読むと、ターミネーターの世界は起こりえないのでは?と思えてしまう。

■ストーリー
クローン。国際法により禁じられている無性生殖による複製人間。研究者のハギリは、ペガサスというスーパー・コンピュータからパリの博覧会から逃亡したウォーカロンには、クローンを産む擬似受胎機能が搭載されていたのではないかという情報を得た。彼らを捜してインドへ赴いたハギリは、自分の三人めの子供について不審を抱く資産家と出会う。知性が喝破する虚構の物語。

■感想
ハギリが新たな人工知能ペガサスと出会う。そしてウォーカロンが子供を産むという噂を調査することに…。ハギリがインドで出会う資産家は、自分の子供が本当に人間なのかの疑問をもっている。すでにこの時点でかなり異質だ。

人間が子供を産めなくなった世界では、ウォーカロンが大多数を占めることになる。人間とウォーカロンの違いはWシリーズの初期で描かれ、その存在意義についても語られている。本作では、人工的に子供を作り出すことができる技術があれば、人は自分の遺伝子を継いでいない子供でも欲しがるのか?ということだ。

近い将来を暗示しているようで恐ろしくなる。人工知能が何もかも分析し、人の脳内に電子回路が埋め込まれ、衰えた体は新しいモノに取り換えることが可能。つまり人が死なない世界では、必然的に子供が生まれなくなるということだ。

その場合、技術をもちいて無理やり子供を生み出すことになる。自然の摂理に反することを行う場合、どこかにゆがみが生じるのだろう。例え法律で禁止されたとしても、法の網の目を潜り抜ける者はいる。そうしたとしても、うまくいかないのがこの世界なのだろう。

人が死ぬことがない世界で、人が死ぬのはどのような時か。Wシリーズでは主人公のハギリが丁寧な口調で論理的な会話をする。それも不自然に屁理屈をこねるような感じは相変わらずだ。そのため、シリアスな場面でも、どこか無機質なハギリの会話がユーモアをふりまいている。

ハギリとウォーカロンの会話は、人間では決してありえないような屁理屈に包まれている。理性的ではあるが、身近にハギリのような人物がいたらあまり近づきたいとは思わないタイプだ。

Wシリーズは人間の未来を描いているようで恐ろしくなる。



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